《緑の物語》


2015年の夏、オーストラリアでの出来事——



 ゴールドコーストの海岸に4人の男女がいる。ケビン、ジェイコフ、そして、ジュリアとララ。


 12月24日のクリスマス・イブの今日。4人は海岸沿いのロッジを借りて、夏のバカンスを楽しんでいた。


 海岸はサンタクロース姿のサーファーたちで賑わっている。サーフィンが得意なケビンが、波の上で華麗に技を決めた。


 「ケビン! あなた最高!」


 恋人のジュリアが笑顔で駆け寄り、キスをした。

 ジュリアは背が高く、長い髪がよく似合うセクシーな女の子。誰が見ても、2人は美男美女の仲睦まじいカップルそのものだ。



 ジェイコフとララはというと、砂浜に立てたパラソルの下で、一緒に並んで“蒸し風呂”状態。

 ショートパーマにサングラス姿のジェイコフが、ララの方を向く。


 「ララ? 何やってるんだい?」


 ララは、懸命に自分の胸の上に砂を高く盛っていた。


 「この方がセクシーでしょ?」


 そう言って、ララはおどけて見せた。

 ララは、笑顔がとてもキュートな、ブロンドヘアの女の子だ。


 「ララ。君は正しい」


 2組のカップルは、最高のバカンスを満喫していた。



          ♢



 海岸に沈む夕日が空をオレンジ色に染める頃、ロッジではサンタクロース姿の4人がクリスマスパーティーの準備を進めていた。


 ジュリアとララは、キッチンで七面鳥のロースト作り。

 ケビンとジェイコフは、クリスマス仕様の部屋の飾りつけ。


 「なぁ、ケビン?」


 クリスマスツリーの電飾をセットしながら、ジェイコフが小声で言った。


 「もうジュリアにプロポーズしたのか?」


 ケビンは小声で返した。


 「今夜なんだ」


 「ワオ! それは本当か?」


 「あぁ」


 「どのタイミングでプロポーズするんだ?」


 「パーティーの始まりさ。最初に部屋を暗くして、七面鳥のローソクを吹き消すだろ? そして君が部屋の電気をつける。《その瞬間のサプライズ》! それが俺の計画さ。うまくいくことを祈っててくれ」

 

 「もちろんさ! ケビン、君なら必ず上手くいくさ」


 ジェイコフとケビンは目を合わせて、笑った。



          ♢



 キッチンでは、ジュリアとララが仲良く料理をしていた。


 「あとはロースト待ちね、ララ」


 「ええ!」


 食事の準備もほとんど整い、あとは七面鳥が焼き上がるのを待っていた。


 「ちょっと今のうちにお手洗いに行ってくるわ」


 そう言ってジュリアはキッチンを離れた。


 そのとき、テーブルの上のジュリアの携帯にメールが届いた。

 ララが画面にふと目を向ける。



 【ジュリア、愛してる】



 ララは目を丸くした。


 なぜならそれが、ケビンからではなく、ジェイコフからのメールだったから。


 ララはジュリアの携帯を手に取り、ジェイコフからのメールの受信履歴を見ていった。



 【ジュリア、君が好きだ】



 【今週末、また2人で会えない?】



 【ジュリア、君のことが頭を離れない。

  俺はララと別れる。俺とちゃんと付き合ってほしい】



 ララは驚いた。

 まさか愛しの彼とジュリアが浮気していたなんて…


 ジュリアはまもなくキッチンに戻ってきた。


 「あれ? ララ? 私の携帯持ってどうしたの?」


 ララは目を細めて答えた。


 「…あなたの王子様に『愛してるメール』送ってるの〜!」


 「ちょっと〜、からかわないでよっ!」


 「ほら〜、もっと自分の気持ちに素直にならないと! はい、送信!!」


 ララはそうおどけて、メールを送った。



 【愛してるわ、ケビン】



 ジュリアはそのメールを見て、顔を赤らめた。




          ♢



 部屋の中は、すっかりクリスマスモードに変容していた。

 クリスマスツリーを準備し終えたジェイコフは、額の汗を手の甲で拭って言った。


 「オッケーだな」


 「あぁ。あと、最後はアレだな」


 ジェイコフとケビンは、2人で部屋の電気のスイッチ位置を確認。


 「よし! これで完璧だ」


 そのとき、ケビンの携帯にジュリアからのメールが届いた。



 【愛してるわ、ケビン】



 ケビンはニヤケ顔でジェイコフに画面を見せた。


 「ジェイコフ、見てくれよ! これはもう間違いなしだろ?

  愛しのジュリア、待ってろよ!」


 「ケビン、わかったから少し落ち着けよ〜。

  ディナーの前に、ちょっと外でタバコでも吸おうぜ? 休憩も必要だろ?」



 そのとき、ララはトイレにいた。

 その右手にはピストルを持って…



 「まさか、こんなクリスマス・イブになるなんて…… 最っ低……」



 ジュリアの明るい声が遠くから聞こえた。


 「ケビン〜、ジェイコフ〜、料理出来たわよ〜! シャンパン用意してくれる〜?」


 「オッケー! すぐ行く!」


 ララは大きく深呼吸してピストルをポケットにしまい、リビングへ向かった。



          ♢



 ゴールドコーストを包む聖なる夜。


 「準備はいいかい? じゃあ、ジェイコフ、電気を消してくれ!」


 ケビンが大きな声で言った。


 海岸沿いに見える幾つものロッジの明かりが1つ消えた。

 窓にはロウソクの灯りがボンヤリと浮かび上がり、そして、また消えた。



 「メリークリスマス!!」



 「パンッ!」



 再び明かりのついたロッジには、口元を手で押さえながら驚きを隠せないジュリアの姿が見えた。



 「まさか……、信じられないわ!」



 ジュリアをすかさず抱きしめるケビン…。

聖なる夜の街では、その明かりの1つ1つにそれぞれの物語がある。


 だが、この4人のサンタクロースが、この先どうなったのかを想像するのは容易いことだろう——


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