第12話「だけど・・・安全じゃないんだろ?」

ミリアンを誘拐しようとした男を相談所へ連行したところ、500ルビイの報酬が得られた。

王国軍からの指名手配で、他にも強盗殺人の容疑がかかっているそうだ。

軍資金もできたことだし、俺はエスラーダに向けて旅立つことをミリアンに伝えた。


「ミノルさん。

 私もエスラーダに連れて行ってください」

 

なんとなく予感はしていたが、やはりミリアンは一緒に行くことを希望した。


「足手まといになってしまうかもしれませんが、

 祖父についていちばん詳しいのは私ですし、

 きっと必要だと思います」


ミリアンは真剣だ。

何も旅行気分で行きたがっているわけじゃない。

本気でお爺さんのことを心配しているのだ。


「それに私、

 ミノルさんの近くにいると、

 とても安心できるんです」


彼女は恥ずかしそうに目を伏せ、頬を染めた。

まずいな。

彼女は俺のことを過大評価している。

いろいろ上手い具合に転んではいるが、実際には100円ショップで買い物しているだけの、普通の男なのだ。


「だけど・・・

 エスラーダまでの道、安全じゃないんだろ?」


俺はモエカに視線を送ってみた。

彼女が1人で旅をするぶんには問題ないだろうが、荷物持ちの俺に加えて、無力で華奢な少女まで同行するんじゃ、さすがにリスクが大きそうだ。

モエカは深刻そうな表情で頷いた。


「・・・そうね。

 昨日あなたを襲ったオオカミみたいな奴が、

 うようよ出てくるって思ったほうがいいわ。

 前方から来る敵は私が引き受けるけど、

 背後はミノルに護ってもらわないと、

 エスラーダには・・・たどりつけないと思う」


まじか。

俺は剣を持ったことさえないんだぞ。

高校の体育では柔道をやったが、受け身とか基礎訓練しかしなかったし・・・。

俺自身は怪我をしたとしても世界転移で治せるが、

その間は、ミリアンを護ってやることはできなくなる・・・。

なにか・・・攻撃手段が必要だ。


「なあ・・・ミリアン。

 さっきの爆発する小瓶は、もう無いのか?」


爆弾があれば、勝ち目があるかもしれない。

俺は中学生までは部活で野球をやっていたことを思い出した。

万年外野でレギュラーにもなれなかったが、遠投には多少の自信はある。


「残りはありませんが

 ・・・作ることはできます」

「え?」

「祖父から禁じられていましたが、

 私でも、簡単なものなら

 魔法水を作ることはできるんです」


俺とモエカは顔を見合わせた。

彼女も魔法使いなのか?

魔法使いの才能は、遺伝するものなのだろうか。


「でも、魔法水を持ち運ぶことは難しいです。

 少しでも漏れたら・・・とても危険ですから」

「ふうん。

 でも・・・そうゆうことなら、

 なんとかできるかも」


俺はナップサックを背負い、椅子にしっかり腰掛けると、精神を集中させた。

100円ショップには、様々な種類の容器が売っているはずだ。


**********


「これ、使えるかな?」


俺は100円ショップ「タイゾー」で買ってきた「アルミ蓋PET容器・3個入(100円)」を袋から取り出した。

ミリアンの前でアルミのフタを指で回して、簡単に開け締めできることを説明した。


「す、すごい!」


ミリアンは目を丸くして感嘆の声を上げた。

信じられないように、小型容器を覗き込む。


「こんなに薄くて、軽くて、透明度が高いなんて・・・」


彼女は感動のあまり目を潤ませていた。

俺の世界では1個あたり33円の価値しかないんだがな。


改めて周囲を見回してみると、窓ガラスが透明でないことに気づく。

棚に並べられた食器類もすべて有色。

この世界では、まだ透明度の高いガラスを作ることができないか、または難しいのだろう。

たとえ作れたとしても、ペットボトルのように軽く頑丈な容器を作ることはできない。


「これだけ透明なら、

 すぐに作れると思います」


ミリアンは台所に行くと、小型ペットボトルに水を入れて戻ってきた。


椅子に腰掛け、両手でボトルをつかみ、目を閉じる。

何かを祈っているように口元がもごもごと動いている。

しばしの静寂・・・。

すると一瞬、ペットボトルを掴む彼女の指の間から、真っ赤な光が溢れ出た。


ミリアンは目を開け、水の色を確認すると安堵の表情を見せた。


「できましたよ。

 火炎の魔法水です」


俺とモエカは、ミリアンが差し出したボトルを凝視した。

光は消えていたが、透明だったはずの水が薄い赤に染まっていた。


「これが・・・魔法水・・・」

「はい。

 ミノルさん、

 この容器、素晴らしいです。

 どんどん作っちゃいましょう!」


ミリアンは嬉しくてしかたがない様子だった。

魔法の原理はよくわからないが、手のひらから水に作用を与えるため、容器の透明度が重要なのだろう。


ミリアンは30分ほどかけて、合計9本の魔法水を製造した。

これだけあれば当面は安心だ。

無くなったら、また補充すればいいしな。


俺はリュックサックのファスナーを開けると、魔法水の瓶を放り込んだ。

それを背中にしょったところで、ミリアンが声にならない悲鳴を上げていることに気づいた。

もともと色白なのに血の気が失せている。


「どうした?」

「あの・・・ミノルさん・・・

 衝撃を受けると爆発しますから・・・」


今度は俺の顔から血の気が失せた。


***** つづく *****

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