第9話「ここは変な人たちもいっぱいいるからね」

「今日は、

 相談所に行ってみようか」


昨夜はたっぷりと睡眠をとれたようで、モエカ溌剌としている。

俺はその逆。

体は動いているが、頭はまだ寝ている。


「相談所?」

「うん。

 困っている人と、

 報酬のためにそれを解決したい人が

 マッチングできる場所。

 どこの町にもたいていあるから」


まぁ確かに俺も困ってはいるが、

「世界を救えと言われたんですけど、どうすればいいんですか?」なんて相談したところで、まともにとりあってもらえるのだろうか。


「俺としては早いところ、

 この世界がどんな状況なのかを把握したいんだが・・・」

「だったら、相談所こそうってつけよ。

 問題をかかえた人たちが集まってくるんだから」


ふむ。

なるほど。


テレビやインターネットでもあれば、即座に世界の情勢がつかめるんだが、もちろんそんな便利なものはない。

宿屋や道具屋の室内で、いくつか書籍は見かけたが、新聞や雑誌のような量産品は見当たらない。

この世界のことが知りたければ、いろいろな人と話をするしかなさそうだ。


俺はモエカの後をついて、町の中心街を歩いていった。


まだ午前中だが、人の行き来は多い。

リヤカーのようなもので荷物を運んでいるのは運送業者だろうか。

昨日は気づかなかったが、モエカのように武装して歩いている連中とも、ときどきすれ違う。

それぞれ好き勝手な格好をしていて、年齢性別もばらばら。

規律がとれた軍隊や警察の類では無さそうだ。


「なあ、モエカ。

 あの、武装してる連中は、何者なんだ?」

「ああ、

 冒険者ね。

 定職についてなくて、頼まれごとを解決しては、報酬をもらっている人たち。

 中には盗賊まがいのことをやってる連中もいるから、気をつけたほうがいいわよ。

 ・・・もっとも。

 私たちも、はたから見たら同類だけどね」


モエカはいらずらっぽく笑った。


大剣を携えた荒っぽい少女と、

リュックサックをしょった男の二人組か。

他人からはどんな風に見られているのだろうか。


女剣士と、従者・・・荷物運びかな。

なんだか情けない気分になってきたので、俺は考えるのを止めた。


「あった、相談所。

 入ってみましょ」


モエカが指差した建物には壁が無く、中で多くの人で賑わっているのが見えた。

掲示板と受付窓口のほか、待ち合わせや交渉ができるように、椅子とテーブルが並んでいる。


俺がモエカに続いて中に入ろうとすると、談笑しながら出てきた2人の男と鉢合わせた。

男のひとりが、俺に気づいて硬直する。


「お、お前・・・」

「え?」


この世界に知り合いは居ないはずだが・・・。

もうひとりの男も、俺の顔を見て何かに気づいたらしく、驚きの表情を浮かべた。


「い、生きていたのか!」

「・・・え?」


2人の男は幽霊でも見たように血相を変え、その場から逃げ出した。


「・・・え?」


その場に取り残され、キョトンとする俺。

なにがなんだかさっぱりわからない。

誰かと見間違えたのか?


モエカは去っていく男たちをしばらく見ていたが、やがて呆れたような表情をした。


「ここは変な人たちもいっぱいいるからね。

 あまり関わらないほうがいいわよ。

 さ、掲示板を見てみましょ」


そう言ってのけると、彼女はスタスタと相談所の奥まで進んでいった。


なんだか釈然としないが、気にしていてもしかたない。

俺は気を取り直してモエカの後を追うことにした。


相談所の掲示板の前に立ち、ずらりと並んでいる張り紙を見上げる。

張り紙に書かれた文字は、例によってまったく読めないのだが、その意味は頭に流れ込んでくる。

ここに持ち込まれた様々な相談が、張り出されているようだ。


「何かに困っているひとが受付で申請すると、

 ここに依頼内容と報酬が張り出されるわけ。

 相談所は手数料をとるけど、

 契約がしっかり履行されるようにフォローもしてくれる」


なるほど。

そうゆうシステムか。

俺は、どんな依頼が来ているのか、ざーっと目を通してみることにした。


・・・ペットの捜索願い・・・荷物運び・・・留守中の警備・・・・・・


ほとんどが他愛もない作業依頼だが、中には「親殺しの敵討ち」といった物騒なものもある。

危険性の高い依頼ほど、報酬も高く設定されているようだ。


「指名手配書も混ざってるな」

「うん。

 それは王国軍からの依頼ね」


王国軍・・・。

この世界にも軍隊があるようだな。

そこが警察の役割も果たしている感じか。

治安が保てているということは、しっかり機能しているんだろうな。


「もしもし?」


突然、背後で声がした。


振り向いたが誰もいない。


・・・いや、下だ。


小さな女の子がじっと俺を見上げている。

中学1年生ぐらいか。

青と紫のカラフルなワンピースを着ている。

およそこの場所には似つかわしくない存在だ。


「私の依頼を受けてはもらえませんか?」


依頼?

この少女が?


俺とモエカは顔を見合わせた。


「お嬢ちゃん、

 迷子・・・なのかな?」


***** つづく *****

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る