午前三時の小さな冒険

天野蒼空

午前三時の小さな冒険

眠れない午前三時、散歩に出かけた。

誰もいない道路に月の光が落ちている。星が頭の上で宝石のように輝いている。黒い布の上にばらまいた宝石。サファイヤ、ルビー、トパーズ、ダイヤモンド。数え切れないほどある。

「みーお」

小さい鳴き声がした。白い猫が金色のふたつの目でこちらを見ている。その猫に1歩近づくと、その猫は歩き始めた。行く先を決めていない散歩だ。ついて行くことにした。

知らない道を右に左に曲がり、空き地を突っ切り、家と家のあいだをすり抜けた。そして、気がつくと森の中に来ていた。湖を囲うように並んだ木々。湖に月と星が映り込み、そこに小さな宇宙が出来ていた。

「みーお」

白い猫がこちらを振り向いて鳴いた。

「どうしたの?」

「みーお」

白い猫は飛び上がった。くるり、一回転して着地したのは猫ではなく女の子だった。陶器のような白い肌、月の光を浴びて薄く光を帯びた白いワンピース、そこから伸びる二本の素足。真っ直ぐな白い髪は腰の辺りまで伸びている。微笑む顔にはえくぼが浮かび、金色の目が細くなる。

さわ、さわ、さわ。木が歌う。

その音に合わせて女の子の足がステップを踏む。風に合わせて手が動く。月の光はスポットライトのように降り注ぎ、星の明かりは華やかさを添える。眼差しはここじゃないどこかを見ていた。

空が白く霞んできた頃、その舞が終わった。優雅に一礼した女の子は最初に見せた愛らしい笑顔を浮かべた。そして高く飛んで、猫の姿に戻った。

「みーお」

何事も無かったかのように白い猫は鳴いた。

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