第7話 遭遇!! レッド・ドラゴンイーター!!


『大甲虫の森林』の草原地帯でモブサウルスを5匹退治し、チュートリアルクエストをクリアしたリンカ(=狩野花梨)。

ドロップアイテムを拾ったところ、その中にはレアな魔石【ジャスト・パリィの魔石】が5個も含まれていた…。


「 なあ? この魔石って、もう、この場で装備できんの? 」

リンカは、『大甲虫の森林 拠点』にいる担当受付嬢のジョセフィーヌに対し、遠距離通信魔法【コール】でたずねた。


「 はい。 装備できます。 ステータス画面を開いてもらえますか? 」


リンカは指示された通りにステータス画面を開いた。


「 そこの『魔石』の項目を指で選択してください。 」

「 こう? 」


『 ピロリン♪ 』

効果音が鳴って、ステータス画面の『魔石』の項目の右側に、現在所持している魔石のリスト(一覧)が表示された。

リストの内訳は、

【ジャスト・パリィの魔石】(必要魔法容量20)…5個、

【パリィの魔石】(必要魔法容量10)…2個、

【攻撃の魔石】(必要魔法容量10)…1個、

となっている。


「 …ってか、装備する前に【ジャスト・パリィの魔石】と【パリィの魔石】の違いを知っときたいな… 」

そう呟きながら、リンカは【パリィの魔石】のテキスト(説明文)を見てみた。




―――――――――――――――――――――――――


【パリィの魔石】 必要魔法容量:10

スキル『パリィ』を使えるようになる。

敵の攻撃(体当たり、尻尾攻撃、等)に合わせてタイミングよく受け流すように自身の武器を当てると、ダメージを20分の1に軽減しつつ攻撃を受け流し、更に3秒間だけ敵の体勢を崩すことができる。

この魔石を1つ装備するとスキル『パリィLV1』、2つだと『LV2』、3つだと『LV3』…とLVが上がっていく。

LVに伴い(LVが上がるほど)、入力受付時間も上がっていく。

入力受付時間は、『LV1』だと『ジャストタイミングの0.1秒前~ジャストタイミングまで』の『0.1秒間』だが、『LV2』だと『0.2秒間』、『LV3』だと『0.3秒間』…と上がっていく。


―――――――――――――――――――――――――




「 ざっくり言うと、【パリィ】はローリスク・ローリターンで、【ジャスト・パリィ】はハイリスク・ハイリターンってわけか… 」

とリンカは呟いた。


「 はい。 端的に言えば、そういうことになりますね。 」

と、ジョセフィーヌが答える。


「 あと…この【攻撃の魔石】のテキストも見とくか… 」

そう呟いて、リンカはテキストを見た。




―――――――――――――――――――――――――


【攻撃の魔石】 必要魔法容量:10

この魔石を1つ装備するとスキル【攻撃】が常時発動する。

尚、この魔石を1つ装備するとスキル『攻撃LV1』、2つだと『LV2』、3つだと『LV3』…とLVが上がっていく。

それに伴い攻撃力が、『LV1』だと『1.1倍』、『LV2』だと『1.2倍』、『LV3』だと『1.3倍』…と上がっていく。


―――――――――――――――――――――――――



  

「 …なんか、【ジャスト・パリィ】に比べると、【攻撃】って上昇率がしょぼいな…。 まぁ、ジャスト・パリィと違って、常時発動って点だけは勝ってるけど… 」

そう言いながら、今度は【ジャスト・パリィの魔石】のテキストを改めて開いて、比較してみた。 


と、ここで、ジョセフィーヌが口を挟んだ。

「 ただ、さっきも言いましたが、ジャスト・パリィの場合は入力受付時間が0.1秒間しかありません。 初心者や並ハン(並のハンター)には扱えないと言いますか…ほぼ『プロハン(プロのハンター)専用』スキルと化しています。 」


「 そっか…。 アタシ、アクションゲーム自体が初めてだから、まだ自分の(アクションゲームの)実力がよくわかないんだけど、【攻撃の魔石】を付けた方が無難ではあるよな… 」

と言って、数秒悩んだが、

「 でも、せっかくレアな魔石…【ジャスト・パリィの魔石】が最序盤で5個も手に入ったんだ…タンスの肥やしにする前にお試しで装備してみるよ♪ 」

そう言ってリンカは、【ジャスト・パリィの魔石】5個を装備した。

【ジャスト・パリィの魔石】5個の必要魔法容量の合計は100なので、初期装備の魔法容量の100以内に収まった。

スキルは、【ジャスト・パリィ】LV5が使用できる状態だ。 ( ちなみに、【ジャスト・パリィ】LV5は発動に成功すると、無傷で敵の攻撃を受け流しつつ敵の体勢を崩せる上、自身の攻撃力が5秒間なんと5倍になる。 )


「 これ、使いこなせたら、クッソ強いよなぁ~♪ 」

「 使いこなせれば、たしかにそうですね…。 まぁ、序盤のクエは簡単なものが多いですから、次のクエでお試ししてみるのもいいかもしれませんね。 ネットでは、『ジャスト・パリィは、並ハンは10回に一回成功するかどうか』なんて言われるほど難しいスキルではありますが、先ほどのチュートリアルクエストを拝見させて頂いた限りでは、リンカさんはアクションゲーム初心者とは思えない動きでしたから、もしかしたら、5回に一回や3回に一回くらい成功できる可能性もありますし… 」

「 だといいんだけどなぁ~… 」


…と、リンカとジョセフィーヌがそんなやり取りをしていた時…

「  グオオォォッ!! 」

東の森林の方から巨大な咆哮が響き渡った!!


「 なんだっ!!? 」

リンカはすぐに方向の聞こえた方向に目をやった。

すると…


『 バキバキバキッ… 』 『 ドシン… ドシン… ドシン… 』

東の森林の木々をなぎ倒しながら、異形の巨大モンスターがリンカのいる草原に姿を現した。


ジョセフィーヌが叫んだ!! 

「 あっ!!? あれはっ…『レッド・ドラゴンイーター』っ!!? 」


( その巨大モンスターは『レッド・ドラゴンイーター』。 オタマジャクシのような体型をしているが、口は大きく裂けており、なんと身体の3分の1ほどが口であり、大きくあいた口には巨大な牙がずらりと並んでいる! 口が全長の約3分の1、胴体も全長の約3分の1、尻尾も全長の約3分の1…といった比率だ。 そして、通常の動物であれば上顎(上唇)付近に鼻があるものだが、このモンスターの場合は本来 鼻があるべき位置には蘭々と黄色く輝く目が付いており、下顎(下唇)の付近に鼻がついていた。 これだけでもかなりの異形なのだが、更にこの生物には(通常の動物と異なり)左右に3本づつ…計6本もの脚が付いていた。 体表は、固まりかけの溶岩のような若干黒ずんだ赤い色をしている。 そして、最も特筆すべきはそのサイズだろう。 尻尾まで含めた全長は50メートルほどもある! 数ある大型モンスターの中でも大きい部類に入る。 『ドラゴンイーター』(竜を食う者)という名前は伊達ではないということだ。 )


「 なんだよあれっ!!? クッソ強そうじゃんっ!!? こっちはまだ、初めてのチュートリアルクエストでモブサウルス5匹 倒しただけの初心者だってのに…。 ジョセフィーヌ!? これもこのゲームの仕様なのかっ!? 」

リンカは遠距離通信魔法【コール】で、数百メートル離れた拠点にいるジョセフィーヌに問いかけた。


「 えっ!? いえっ! レッド・ドラゴンイーターは、クエストとは無関係に、低確率でランダムに出現・乱入してくるレアな大型モンスターで、ボス級(ボスクラス)…というより、並みのボスモンスターを凌駕する強さを持っています! 初めてのチュートリアルクエスト直後に出現するような仕様にはなっていません! たまたま運悪く遭遇してしまっただけですっ!! それより、急いで拠点まで走って戻ってくださいっ!! 【テレポート】は、あくまで拠点や街を空間転移で移動するシステムですので、今リンカさんがいるフィールドでは使えません!! 」


「 マジかよっ…!? 」

リンカは、ジョセフィーヌの言葉を聞きながら拠点に向かって走り出した。


リンカは走りながら質問した。

「 ちな、このゲームってデスペナルティはどうなんの!? 所持金半分にされるとか!? 」

「 いえ…なんと言うか、かなり独特なペナルティーなんですが…死ぬと、ギルドで復活させてもらってギルド受付からリスタートなんですが、『復活代』…復活の手数料として所持している魔石の内、『必要魔法容量が高めで強力な魔石』や『滅多に出ないレアな魔石』などからランダムで『5個』、没収されてしまうんです!! 」

「 えぇっ!!? 割とシャレになんないな、そのペナルティー… 」

「 はい…なので、プレイヤーの皆さんはとにかくデスペナルティにはならないように、慎重にプレイする方が多いですね。 」

「 …じゃあ、もし今ここでアタシがレッド・ドラゴンイーターに殺されたら、復活代としてレア魔石の【ジャスト・パリィ】の魔石を5個すべて没収されちゃうってことか…レッド・ドラゴンイーターのヤツ、今回は見逃してくんね~かなぁ… 」


しかし、『見逃して欲しい』というリンカの願いも虚しく…

「 グォッ…? グガアァァァッ!! 」 『 ドスンッ! ドスンッ! ドスンッ! ドスンッ! … 』

レッド・ドラゴンイーターはリンカに気付くと即座にダッシュで追ってきた!


「 うわっ!? デカイくせに意外と速っ…!? 」

後ろを振り返りながら走るリンカの背後 十数メートルの位置まで、既にレッド・ドラゴンイーターは肉迫していた。


( 「 そっか…一般的には『デカイ=遅い』ってイメージだけど、デカイってことはリーチが長く歩幅が大きいってことだもんな…。 『デカイ=細かな動きや俊敏さは低い』かもだけど、『デカイ=直線の長距離を走るのは速い』ってことか…。 」 )

リンカは、肉迫するレッド・ドラゴンイーターの存在を背後に感じながら、そんなことを考えていた。


リンカとレッド・ドラゴンイーターとの距離は残り数メートル!


「 あぁっ…!! 追いつかれちゃうっ!!? 」

ジョセフィーヌの悲鳴がこだまする!


「 くそっ…もう左右に回避する余裕もねぇっ… 」

レッド・ドラゴンイーターの頭部が幅15メートルくらいとすると、中心から端までは約7.5メートル。 もう、このタイミングでは左右どちらかにサイドステップしても かわしきれないだろう…。


「 とりま、ガードするしかねぇっ!! 」 『 グルッ!! 』

リンカは後ろに振り向きつつ、左手に直径50cmほどのラウンドシールドを構えた!

少しでも威力が軽減することを期待しながら、背後に(レッド・ドラゴンイーターの進行方向に向かって)バックジャンプをしながら…。 ( よく、格闘漫画とかで見かける『自ら後方に跳ぶことで相手からの打撃の威力を軽減する』的なアレだ。 )


『 ドオォォォォンッ!!! 』

周囲に凄まじい音が響き渡り…

「 うわあぁぁぁっ!!? 」

全長50メートルのレッド・ドラゴンイーターの突進を受け、身長160cmのリンカは20~30メートルほども はじき飛ばされた!!


勢い余ったレッド・ドラゴンイーターはすぐには止まれずに、(リンカをはじき飛ばした後も、)『ドドドドドドッ…』と、百メートル以上もオーバーランしている…。


『 スタッ… 』 「 くっ…いてぇな……えっ!!? 」

はじき飛ばされたものの、どうにか足から地面に着地したリンカは、自分の体力の残り(の数値)を見て驚いた。 

194あったはずの体力ゲージは、なんと38しか残っていなかった!! 

「 嘘だろっ!? 今の一撃でこんなに(194-38=156)ダメージ食らったのかよっ!!? …ってか、ガードは20分の1にダメージ軽減するから、もしも今ガードせずに直撃食らってたら この20倍(156×20=3120)もダメージ食らってたことになんのかっ!!? パネぇなんてモンじゃねぇな… 」

  

「 当たり前ですけど、先ほど倒したモブサウルスとは桁違いなんです!! とにかく、どうにかして ここ(拠点)まで戻って来て欲しいんですが…先ほど見たようにレッド・ドラゴンイーターは直線の移動速度は かなり速く、まだ移動系スキルを持っていない今のリンカさんの速度では逃げ切れるかどうか… 」

「 …逃げ切るのが無理なら、もう戦って倒すしかねーな… 」

「 えぇっ!!? 」


そして、リンカは剣を構えた。

「 さっき手に入れたスキル【ジャスト・パリィ】…これなら、レッド・ドラゴンイーターの攻撃も無傷で受け流せるんだろ? 」


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