第4話 受付嬢のジョセフィーヌ


モンバスFD(モンスタバスター・フルダイブ)の世界にフルダイブした花梨(=リンカ)は、キャラメイクを終え、目の前のギルドカウンターに向かった。

まずは、チュートリアルを受けるのだ。

( ちなみに、このハンターギルドの建物の内装は、よくあるファンタジーRPG風≒中世ヨーロッパ風といった感じだ。 )


カウンターに着くと、リンカの目の前には、リンカと同じくらいの身長(160cmくらい)の綺麗な受付嬢が微笑みながら立っていた。

ちなみに、外見について下記すると…スカイブルーのボブヘアで前髪は真ん中わけ、やや垂れ目でスカイブルーの瞳、巨乳、白い襟付きシャツの上に身体にフィットしたノースリーブのネイビーの制服(ところどころにスカイブルーのラインが入っている)、襟もとにスカイブルーのスカーフ、手首が隠れるくらいのネイビーの手袋(裾はやや広がっている)、腰にはグレーの太めのベルトとその両サイドにグレーのポーチ、下半身は白いタイツ、足には踝(くるぶし)が隠れる程度の短めのブーツ(裾はやや広がっている)、頭にはネイビーの帽子(帽子のツバはないが、中央に五角形の金色のプレートが付いており、プレートには「MB」(モンスターバスター)という文字をかたどったロゴが彫られている)…といったところだ。


( 「 まぁ、NPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)なんだろうな… 」 )

…とリンカは考えながら、受付嬢に近づいていく。


リンカが受付嬢の近くに着くと、

「 セントラルの街のハンターギルドへ、ようこそ! 私はリンカさんの担当受付嬢を務めさせて頂きます、ジョセフィーヌと申します。 よろしくお願いいたします。 」

と、受付嬢…ジョセフィーヌが挨拶してきた。


「 あっ…アタシはリンカ。 アクション性のないRPGやMMORPGなんかは毎日のようにプレイしてんだけど、こーゆーアクションゲームって初めてなんで…下手かもしれないんだけど、よろしく頼むよ、ジョセフィーヌ♪ 」

と、リンカも挨拶を返した。

…が、挨拶を返しつつ、

( 「 NPCに『このゲーム初めて』だの『アクションゲーム自体やったことない』だの話しても反応できないんじゃないか…? 」 )

とも思っていた。


しかし、リンカの予想は(いい意味で)裏切られた。

「 アクションゲーム自体が初心者さんということですか…。 でも、大丈夫だと思いますよ? このゲームは、上手い人も そうでない人も一緒にパーティーを組んで楽しむこともできますし。 プレイすればきっと楽しんで頂けると思います♪ 」

と、ジョセフィーヌはリンカの挨拶に対し、まるで生きている人間のような対応・返答をしてきたのだ。


「 えっ!? あれっ…?? …もしかして、アンタってNPCじゃなくて中の人いるの? メーカーの社員さんが受付嬢を演じてる…とか? 」


ジョセフィーヌは「 フフッ… 」と、いたずらっぽく少し笑うと、リンカに告げた。

「 いいえ、私はれっきとしたNPCですよ? 但し、AIですけどね♪ 」


「 AIっ!? …って、人工知能の…? 」

「 はい、そうです♪ 」


「 はぁ~… 」

リンカはため息をついた。


たしかに、ここ数年でAI(人工知能)のレベルは跳ね上がってきている。

大企業などでは人間以上の知能の超高性能AIを役員会議や開発会議に(PCの状態で)同席させて成果を出しているところもあるらしい。 ( 世間の一部では、「このままでは、いずれ世界はAIに乗っ取られ、人類は淘汰される!」といった懸念も出てはいるが…。 )

しかし、まさか、家庭用ゲームでこれ程のレベルのAI搭載NPCが登場するとは…


「 すごいな…漫画やアニメの世界が現実になったみたいだ… 」

と、リンカは呟いた。


「 フフ…♪ さて…では、このゲームについて、基本的な説明をいくつかさせて頂きたいのですが、よろしいでしょうか…? 」

と、ジョセフィーヌがたずねてきたので、

リンカは、

「 ん? ああ、よろしく♪ 」

と、頷いた。


「 では、まず最初に、リンカさんの担当受付嬢である私のキャラクターメイキングについてです。 今の私の容姿や声や性格や話し方はランダム生成された状態です。 もし気に入らなければ作り直すこともできますが、いかがいたしますか? ちなみに、作り直したとしても、私の記憶は引き継がれますので。 もっとも、出会ってから まだ二言三言(ふたことみこと)交わした程度ですけど… 」

「 いや、今のままでいいよ。 たしかに、出会ってから まだ間もないけど、もう慣れちゃったというか、愛着もわいちゃったというか… 」


リンカから『愛着もわいちゃった』という言葉を聞き、ジョセフィーヌは思わず頬を赤らめた。

「 もっ…もう、リンカさんったら… 」(///)


( 「 …ホント、反応が人間ばりだよなぁ~… 」 )

とリンカは改めて思った。


「 コホン…では、続けますね? このMBFD(モンスターバスターフルダイブ)の世界内の時間は、リンカさん達の住む現実世界(リアルワールド)の10倍の速度になっています。 例えば、この世界で10時間遊んでも、現実世界では1時間しか経っていませんので、ご安心ください。 」

「 これって、ホントすごい技術だよなぁ~… 」

「 ですよね~…。 まぁ、私も、原理とかは さっぱりわかりませんが…。 え~…では次に、このゲームの基本的な流れですが…リンカさんの右手方向をご覧ください。 」


リンカは言われた通りに右を見た。

「 ん? 人だかりがあるな… 」

そこにはハンターたちが20人ほど集まって、同じ方向を凝視していた。


「 あちらはクエストの依頼書が貼ってある掲示板です。 皆さんは掲示板に貼られている複数の依頼書を吟味しているところです。 気に入ったクエストがありましたら、その依頼書の右下の『受注』というロゴ押してください。 そうすると、私の方に瞬時に情報が届きますので、出発の手続きを開始します。 尚、依頼をこなしていくと上昇していくGR(ギルドランク)というパラメーターがあるのですが、GRが低いと高レベル・高難度のクエストは受けられない場合がありますので、ご注意ください。 」

「 なるほど、了解♪ じゃあ、早速、掲示板で初心者向けクエストを探してくればいいのかな…? 」

「 いえ、このゲームを初めてプレイされる方には、こちらの『チュートリアルクエスト』を受けて頂くことになっておりまして… 」

ジョセフィーヌがそう言うと、リンカとジョセフィーヌの間の空中に、A3用紙くらいの依頼書が出現した。

「 わっ!? ちょっとビックリしたな…。 え~と…なになに…『 【チュートリアルクエスト】 モブサウルスを5匹退治せよ! 』か…。 モブサウルスって…名前からして雑魚っぽいな…(苦笑) 」

「 まぁ、それは私もそう思います…(苦笑) 」

「 じゃあ、これを受注すればいいんだな? …依頼書の右下にある『受注』っていうロゴ…っていうかボタンを押せばいいの? 」

「 はい、そうです。 」

「 んじゃ♪ 」(ポチッ)

リンカはジョセフィーヌに促されて『受注』ボタンを押した。

『 ピロリーン♪ 』

という音が鳴った。

「 これで受注が完了しました。 このゲームでは こういったモンスター退治以外にも様々なことができるのですが、それについては このチュートリアルクエストをクリアしてからご説明しますね。 それでは…『ステータス・オープン』と唱えながら、右手の人差し指で空中を押す動作をしてみてもらえますか? 」

「 こうか…? ステータス・オープン! 」

リンカがジョセフィーヌに言われた通りにすると、突如、空中にリスト(黒地に白枠・白字)が現れた。

リストには下記のように羅列されている。




―――――――――――――――――――――――――


NAME : リンカ

性別   : 女


体力   : 200

スタミナ : 200

魔力   : 200


攻撃力     : 10

防御力     : 100

クリティカル率 : 10[%]

攻撃速度    : 10

ラン       : 10

ダッシュ    : 10

ジャンプ    : 10


魔攻力・火炎 : 10

魔攻力・氷雪 : 10

魔攻力・雷光 : 10

魔攻力・毒   : 10

魔攻力・麻痺 : 10

魔攻力・睡眠 : 10

   

魔防力・火炎 : 10

魔防力・氷雪 : 10

魔防力・雷光 : 10   

魔防力・毒   : 10

魔防力・麻痺 : 10

魔防力・睡眠 : 10


武器 : なし


防具

 頭 : ルーキー防具【頭】

 胸 : ルーキー防具【胸】

 腕 : ルーキー防具【腕】

 腰 : ルーキー防具【腰】

 脚 : ルーキー防具【脚】


見た目装備

 武器 :なし

 頭  : なし

 胸  : ルーキー防具【胸】

 腕  : ルーキー防具【腕】

 腰  : ルーキー防具【腰】

 脚  : ルーキー防具【脚】


魔法容量 : 100


魔石 : なし


スキル : なし


アイテム : なし


素材 : なし


所持金      :   0[GLD]


―――――――――――――――――――――――――




「 おおっ!!? まるで、漫画やアニメみたいだなっ!! 」

リンカは興奮している。 ( リンカは普段からMMORPGで頻繁にステータス画面を開閉してはいる。 しかしそれは、あくまでテレビ画面の外からコントローラーのボタンを押して開閉しているだけだ。 だが、今は違う。 ゲームの世界にフルダイブで没入して、「ステータス・オープン!」と宣言しながら指で空中を押したら空中にステータス画面が出現したのだ。 こんなオタク心を刺激するシチュエーションで興奮するなという方が無理だろう。 )


興奮冷めやらぬリンカに、ジョセフィーヌは説明を続ける。

「 こちらがリンカさんの今のステータスになります。 先ほどリンカさんは普段からMMORPGをプレイされているとおっしゃられてましたので、大体のパラメーターの意味は察しがつくかと思うのですが、パッと見てご質問はありますか? 」


「 ん~…『武器』が『なし』になってんだけど…ってか、実際、今のアタシ手ぶらなんだけど… 」

「 それなんですが、ステータス・リスト内の『武器』の『なし』の部分を指で押してもらえますか? 」


「 ん、こうか…? 」

リンカが『なし』を押すと、そこに、『なし』の他に『ソード&シールド』という選択肢が現れた。


「 これ(ソード&シールド)を押せばいいのかな…? 」

「 はい。 」


『 ポチッ 』

リンカが『ソード&シールド』という選択肢を押しすと、更に『ルーキー・ソード&シールド』という選択肢が現れた。


「 この『ルーキー・ソード&シールド』ってのも押しちゃっていいんだよな…? 」

「 はい。 」


『 ポチッ 』

リンカが『ルーキー・ソード&シールド』という選択肢を押した直後…

「 わっ!? 」

突如、リンカの右手には刃渡り70~80cm程の鉄製と思われる剣が、左手には直径50cmくらいの(同じく)鉄製と思われるラウンドシールドが現れた。

ステータスを見ると、先ほどは(素手だったからか?)攻撃力10しかなかったのに、今は攻撃力110まで上がっている。


「 これは、『ソード&シールド』という武器種の初期武器である『ルーキー・ソード&シールド』という武器です。 ゲームを進めていくと多種多様な武器を使えるようになるのですが、初めてのチュートリアルクエストでは、皆さん、その『ルーキー・ソード&シールド』で戦って頂くことになっていまして… 」


「 へぇ~そうなんだ…。 いや、でも、この武器、すごい使いやすくていい感じだよ! ってか、フルダイブ、マジすげぇな…まるで本物の剣を振ってるみたいな感覚だ…。 …まぁ、本物の剣なんて、振るどころか持ったこともないんだけど… 」

リンカはそう言いながら、剣で素振りをしてみている。

素振りをしながら、更にジョセフィーヌに質問した。

「 …『見た目装備』ってのは、『実際の装備と違う見た目にできる』ってことなんだろうけど、これはどうやって入手すんの? 店で買うの? 」


「 『見た目装備』はその装備を入手した時に自動で入手されます。 例えば、頭部防具Aを店で購入したら『見た目装備』の頭部防具Aもその時に自動で入手されます。 ちなみに、『見た目装備』の中には課金…リアルマネーで購入できるものもあります。 」


「 なるほどね~…。 あ…あと、最後の方に『魔法容量』と『魔石』と『スキル』って項目があるけど、これって、『魔法容量』に収まる範囲で『魔石』を装備すると『スキル』が身に着く…みたいなこと? 」


「 はい、そうです! すごいですね…このステータスをパッと見ただけで、そこまで理解しちゃうなんて… 」

ジョセフィーヌはリンカの察しの良さに感心している。


「 いや~…まぁ、それほどでも…あるかな? なんつって♪ 」

そして、リンカは少し調子に乗っている。


「 ただ、『魔石』は基本的にはモンスターを倒して入手する物ですので、今から行うチュートリアルクエストでは魔石もスキルもなしで挑んで頂くことになります…。 …とは言っても、あくまで『チュートリアル』クエストですので、スキルがなくても全然問題ない難易度ですので…。 」

「 そっか。 なら、まぁ、安心か♪ 」


「 では…リンカさんも早速モンスターと戦ってみたいでしょうから、後は実戦しながらご説明しましょうか? 」

と、ジョセフィーヌはリンカに告げた。


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