雨の日、妖に出会う

鳥の音

01/天気雨

「えーと......君は迷子?」


青空の下、どういう訳だか突然降り出した激しい雨の中、傘に当たる滴がやかましく音を立てる中で、僕はその女の子についつい話しかけてしまっていた。

年齢はわからないけれど、身長からして小学校低学年くらいの子だろう。

首にかかるくらいの黒い髪、フリルのあしらわれた白いワンピース姿の女の子は、何故だか顔を狐のお面で隠していて、どんな表情をしているのかは伺えない。

ただ、人のいない公園の真ん中で、誰の気にも止められずに全身を雨で濡らしているその女の子が、僕には何だか泣いているように見えて、放って置けないなと......そう思った。


「こんな所で何をしてるの?」


再度の僕の質問に、女の子はやはり何も返しはしない。

ただただ黙り込んで、僕の顔を見てくるのみである。

もしかしたら警戒しているのだろうか?

まあ、確かにいきなり知らない人に話しかけられたら警戒もするのかもしれない。

僕は少し考えて


「これあげる。」


さしていた、ついさっき買ったばかりのビニール傘をその女の子に手渡した。

女の子は半ば無理矢理渡された傘と僕を見比べて、不思議そうに首を傾げる。

僕は「それじゃあね。」と短く別れの言葉を伝えると傘から出て走り出した。

時間にして五分にも満たないやり取りである。

しかしこの五分にも満たない僅かな時が、僕の今後を大きく変える事になる。

具体的に何があったのかと言えば、女の子にまた出会ったのだ。


「ふぅー......全身ずぶ濡れだ、って......へ?」


どこぞのアパートの一室、一階一番端、今現在僕が一人で住んでいるその部屋の玄関に、先程公園で出会った女の子が立って、こちらを見ていた。

女の子は僕が渡したビニール傘を大事そうに抱きしめて、驚く僕の顔を狐の面越しに真っ直ぐ見てくる。

鍵は掛かっていた筈なのに、いったいどうやって入ったのだろう?などと考える僕の視線が不可解な物をとらえる。

女の子のすぐ背後に、何か大きな物がゆらゆらと揺れている。


「っ!」


目を凝らし、その正体を理解して更に僕は混乱した。

それは尻尾だった。

白く大きな狐の尻尾。

人間には決してありえない筈のその部位を見て、ようやく目の前の女の子が妖怪の類なのである事を理解した僕は、これからどうすべきなのかを考える。

何しろこんな経験初めてなのだ。

とりあえずまずは相手を注意深く観察する事から始めよう。

女の子には未だに動きはない。

ただ静かにこちらを見つめながら、ずぶ濡れのままの身体を小刻みに震えさせて......させて......


「......お風呂を沸かそうと思います。」


例え人で無かったとしても、ずぶ濡れの子供をそのままにしておくのはダメだと思う、人として。

そんな訳で、女の子に干してあったタオルを渡すと、僕はお風呂を沸かす事にした。

色々気になる事だらけだけれど、まあ、それはとりあえず後にしよう。

風呂場にある曇りガラス越しの外は日の光で明るくなっていた。


「雨、止んだのか。」

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