第24話 実際問題についての話

「テンセイさんの年齢が、問題になるかもしれません」

「僕の年齢?」

「失礼ですが、まだ学生ですよね?」

「はい。高校生です」

「あぁ、そっか……。まさかテンセイさんが、18歳未満の男性が成人向けの漫画を描いていることは想定をしてなかった。でも、わざわざ個人情報を隠していたみたいだから、そういう事情も考えておくべきだったかしら」

「やっぱり、エロ漫画を描くのに学生なのはマズイですか?」


 仲里さんは、想定している問題について詳しく説明してくれた。


 前の世界だと、成人向けの作品を購入するときには年齢確認をされて、18歳未満だと買うことが出来ない条例や、出版社による自主規制があった。だけど、こちらの世界では同じようなルールは無かったはず。


 同人誌の委託依頼を出そうと考えた時にR18について少しだけ調べた。その時は、未成年でもエロ漫画を描く事に関して特に規制されていなかった。だから大丈夫だと思っていたが。


「んー、えっと……。そうですね。女性だったら、全く問題にはならないでしょう。男性でもエロ漫画を描いちゃダメという決まりは、今のところ無かったと思います。ただ、男性身分保護法によって規制される可能性があるかもしれないんですよ」

「なるほど。男性身分保護法、ですか?」


 僕の性別が男であるということで、R18やら自主規制とは違った別の法律によって制限されてしまう可能性があると、仲里さんは言う。


「男性身分保護法で、未成年の男性に対してわいせつな行為を強要すると罪に問われる可能性があるのです。もしかすると、それが適用される恐れがありますね」

「漫画を描くだけで、罪に問われるんですか?」

「仕事とはいえ、成人向けの漫画を男性に描かせるというのが周囲から見てどういう判断をされるのか。なにしろ、今まで、未成年の男性でありながらエロ漫画家として活動している人の前例が無いので、一度やってみる前にちゃんと法律家に相談をして確認してみないと怖いです」

「なるほど」


 この世界では、エロに寛容ではあるものの男性という身分に関しては、とても強く守られているらしい。今までに前例のない事だから、容易に判断を下すべきじゃないと仲里は考えている。俺が成人向けの漫画を描くために、色々な事を確認をしてから動く必要があると、彼女は丁寧に説明してくれた。


 僕は少し考えすぎじゃないかとも思ったが、大手出版社の編集者として働いている彼女の忠告だからこそ信じることが出来た。今まで、色々とアドバイスもしてくれたので僕のことを考えてくれているからそこ、仲里さんを信じるべきだと思った。


「とにかく、エロ漫画家として今すぐにデビューする、というのは止めておいた方が良さそうですね。連載の提案を持ってきた、私が言うのもなんですが」

「いえ、忠告ありがとうございます」


 そう結論付ける仲里さん。僕もお礼を言って、感謝を伝える。ただ、気になることがあった。


「同人誌に関しても、エロを描くのは辞めたほうがいいですか?」

「うーん、そうですね。多分、同人誌は自由に描いても大丈夫だと思います。個人でやっている活動なら強制ではなく、自主的な活動だということが明らかですからね。でも、わざわざ性別を明かすこともないでしょう。今まで通りに、男性であることは隠したまま活動するのがベターな方法だと思います」

「なるほど、わかりました!」




 仲里さんと話し合って、色々と価値のある情報を知れた。その後も、漫画新人賞に関するアドバイスまで頂いて、出会ったばかりの僕に対して仲里さんはとても親切に意見を交わし合ってくれた。


「あ、もうこんな時間か」


 気が付けば、予定していた時間をかなりオーバーしていた。そろそろ僕は家に帰らないと。暗くなる前に家に帰らないと、母親や姉たちを心配させてしまうような時刻になっていた。


「もう、そろそろ僕は家に帰らないと」

「そうね。男の子が、夜に出歩くのは危ないから」

「今日は、本当にありがとうございました」

「いいえ。こちらこそ、本当にありがとう」


 数多くの有意義なアドバイスをしてくれた仲里さんに対して、僕は頭を下げて感謝した。心の底からのお礼を、言葉に込めて伝える。


 会って話したいと誘ってくれて、連載の提案まで持ってきてくれた仲里さん。


 残念ながら、僕が18歳未満の男だったから色々な問題ですぐに連載は難しそう。彼女の要望に応えることが出来なくて、それなのに最後まで親切に接してくれた。


 話し合いの最中に飲み食いした、コーヒーとスイーツまで奢ってもらったし、感謝しきれない。


「コーヒーとケーキ、ごちそうさまです」

「いいえ、テンセイさんに出会えたことが私にとって大収穫でしたから。コレくらいの奢りは問題ないです。これから、一緒に仕事をしていく事ができるようになれば、私は満足なんですよ」

「僕もいつか、仲里さんの勤めている出版社で漫画を描きたいです」

「まずは、もう少し大人になってから」

「ですね」


 それから彼女と連絡先を交換して、将来は一緒に仕事しようと約束してから僕たちは別れた。彼女は僕を家まで送ると申し出てくれたが、流石にそこまで面倒をかけるわけにはいかない。仲里さんの申し出を断って、僕は1人で家に帰る。




 今日は漫画編集者と、とても有意義な長時間の話し合いをした。帰り道の途中で、前世で漫画家だった頃の生活を思い出した。なんだか僕は、昔が懐かしくなった。

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