第二章~大陸移動編~

17女神、さぁ、何処に転移した!?

 ここは、エストニア大陸の何処かの平原。


 転移先である見渡す限り何もない平原には、ポツンと四角く白い石畳が敷かれた場所があり、真ん中に配置された台座の周りには魔方陣がぐるりと青白い光を放っている。そして台座の上で青白い輝石が宙を浮かんでいた。


 転移装置の到着点の一つである。


 ここから本国への転移を行うには、特別な道具が必要となるようだが、私達候補者はそれを持ち合わせていないので、自由に転移は行えない。

 恐らく、ライセルさんやカミーユさんは持っているのでしょうね。

 てそうでなくては二ヶ月後、どうやって本国まで帰るのよ?って、事になるじゃない!


 しかしながら、私は持たされてはいない。


 用は、送り出されたら最後、後は自力でどうにかしろという事だ。


 見渡す限り平原が広がり、太陽は中点よりやや右方向への傾きであることから、時刻はまだ昼より前で、太陽の有る彼方が東で反対が西となる。


 北西の方向には、山脈の山頂の連なりが僅かに見え、東の彼方には塔の天辺らしい白い円柱が微かに見えている。


「……さて、ここが何処かも解りませんが、何処を目指して動きましょうか?」


 指導役のライセルさんが、三人の候補者を見渡し訊ねる。


「俺は持ってないけど、二人とも地図は持ってきて無いの?」


 リドイさんの問いにレイン様が答える。


「持ってはいますが、今の状況だけでは、似たような風景の場所が幾つか有りますし、何処を見ても推測の域をでないでしょう?何処か村なり町なり人の居るところ目指してから判断しませんか?」


 確かに、塔と山脈と言う組み合わせは、大陸の中でもそう多くはないけど少なくもない。

 ここからの距離では、僅かに見えている山脈の規模も、あの白っぽい塔の全容も見えないので、地理的な確信の基準には至らない。


「なら、先ずは、人工物の見えている方角へ向かって歩いていくべきって事よね?」


 今見えている人工物、あの白い塔らしきものが、海の灯台か何かなら近辺に村なり町が有るだろうと踏んだわけだ。


「そうですね、それが無難そうですね。私達の意見は纏まりました。あの灯台の方面を目指します」


 どうやら、私たち三人の中のリーダーはレイン様と言うことになったようで、彼が三人の下した総意を答えた。


 ――ま、勇者候補だしぃ?公爵子息で身分的にも一番高いですしねぇ~。


「そうでうね、可能性的にも人工物を目安に進めば集落などの人の所在は近いでしょうね」


 レイン様の答えに、二人の護衛兼指導役も頷き賛同した。





 ◇◇◇




 転移門から歩くこと二時間ほど、その間に魔物との対戦が三度ほど行われていた。



 出てきたのは、昆虫系の魔物ニードルビーとポイズンルビーだ。

 ニードルビーは、お尻が黄と黒の縞模様で、体長が20㎝程あり、ポイズンビーはそれより一回り大きく30㎝程の赤と黒の縞模様を、している。


 王都周辺よりも広大に広がる平原の為、一度に出てくるビー種も集団化していて、大抵が三匹~六匹程の単位で出てきた。


「数が多いときは、接近戦を避け先ずは遠方からの攻撃で数を減らしてください!でないと、近接者が取り囲まれ窮地に陥りやすくなりますよ!」


 私とリドイさんは、顔を見合わせ頷きあう。


『『風魔法だ!!』』



「「風裂斬ウィンドカッター!!」」


 二人合わせて十を、越える風の刃が放たれビー種の殆んどが真っ二つになって落ちていった。


 残りを空かさずレインさんの斬劇が仕留めてる。


「討伐証明は、誰が持ちます?あと、ビー種等の羽は素材として使えるから持ってった方が良いですよ」


「え!?羽って売れるんですか?」


「引き取り価格は高くありませんが、魔道具作りに使われるみたいですよ」


「え~!!それじゃあ勿体無いことしちゃったー!……一つ、勉強に成りました」


 ギルド登録の時に教えてくれなかったじゃん~!!と、ジト目でライセルさんを見たら、苦笑いで返されてしまった……。


 どうやら、失念していたらしい。



 その後も何度か魔物との戦い続け、日も暮れだした頃、漸く野営をすることになる。


 火を起こし、レイン様は魔物避けやテントを取り出して組み立ていた。


 リドイさんは、テントやらテーブルやら食器やら細々と色んな物を取り出している。


「え!?何でリドイさんそんなに道具の枠簡単に使っちゃっているんですか!?収納ポーチは、全部で三十種しか入らないんですよ?」


 私だって、出来るなら項目毎に入れたかったわよ?その方が目で見て管理しやすいもの。

 だけど枠が限られているから、限られた中で試行錯誤したのに………何でそんなにも簡単に項目枠を潰しているのよ!?


「お二人とも、そんなにポンポンと物を出されますけどぉ~、お荷物の方は今後増えるけど大丈夫なんですかぁ~?ポーチの収容数は限界が早いんですよぉー?」


 国から支給された収納ポーチの収容可能数は、三十種、各九十九個が上限だ。

 それなのに、この二人と来たらポンポンポンポンと次から次へと物を出してきているの。


 だから出来るだけ嫌みっぽ~く聞こえるように言ってみたのよ!



「は…?荷物?ポーチの収容数が何だって?……アレか!最初の支給された可能枠の事か!?魔改造して収納枠はメッチャ増やしたから、俺の方はノープログレムだ!!」


 ドヤ顔でリドイさんは、収納ポーチの収容枠を増やしたことを明かした。


 ………………………はっ?


 何ですと!?収納枠を増やしただぁっ!?

 そんな事が可能なの!?


 そ、そうか……リドイさんは、そもそもそちら方面の職業の方、ついでにご実家は魔道具製造販売の一流商会ですものね………。



「僕の方も心配ご無用です。僕はのが有るからね」


 にっこり微笑んで、レイン様はの収納ポーチそ存在を明かしてくれた。しかも支給された収納ポーチよりも、収納枠が格段に多いのだとか………。


 ………ノオォー!!何て事!


 ……さ、流石は公爵家。


 二個使いとは遣ることが違いますなぁ――。



 ……て事は何?お二人とも枠数にはかなりの余裕がお有りって事ですか!?



 何か………ズルく有りませんか?



「イリスはテント出さないのか?」


 リドイさんの一言にハッとして周りを見れば、まだ何も手を付けていないのは私だけだった。


 ライセルさんもカミーユさんも銘々にテントを出して設置作業をこなしていた。


「わ…だ、出します。『テント取りだし』」


 シュパアァァっと、光を放ち私のテントが収納ポーチから完成状態のまま無事出てきた。


「え…?何ソレ!!まんま収納してるのかよ!?」


 側に居たリドイさんの声に、他の三人も反応してイリスの方を見る。

 一番最後に作業を始めたイリスが、既にテントを完成させていると言う光景を目にしていた。





 ◇◇◇




「それは、考えたわねぇ~」


 ポーチの収納枠を出来るだけ減らす為、完成したテントに野営セットを全て押し込み、宿屋用に旅行鞄といざという時の夜会用ドレスや小物類をクローゼット毎運ぶと言う手段に出たことを明かした。


「テントって、完成状態でも運べるんだね。確かに、その方が効率的かぁ………」


 リドイさんも一頻り私のテントの周りを見て周り、詳細を確認して回ってた。




 ライセルさんとレイン様は二人で何か話し込んでいた。


「意外と使えますね、この手法………」


「この方が格段に効率的だね………」


 二人とも、組み立て終わった自らのテントを収納ポーチに片付けては、何度か場所を変えて取り出す作業を繰り返していた。


「杭も打ち込まれた状態で出てかるのか………」


「これなら大分、支度準備の時間短縮が図れますね………」


「帰ったら、何処までの規模まで出来るか試してみよう………」


 遠征時の陣営設置時間の短縮………軍事利用の相談ですか?



 その後も二人は何かしらを話し合っていた。


 騎士団関係の事案かしら?

 

 ……まぁ、こんなところに来てまでお仕事熱心ね。




 ◇◇◇




 正味二日ほどかけて、白い塔を目指して進み、漸く塔の全容が見えてきた。


 遠くから見えた白い塔は、岬の灯台だった。


 白い色をしていたのは、夜の暗闇からでもその存在が視認出来るようにだ。

 灯台周辺は、地形が高くなっていたから、遠くからでも白い塔のてっぺんが見えたようだ。これがもし平地だったなら、塔らしき人工物の存在を認識することは出来ず、人の住む地へ辿り着くことが困難になっていたことだろう。


 正に、灯台様々ね。


 残念ながら灯台側は、地形的に海から高く競りだしている為、こちら側には港町は無いようだ。


 完全に、漁船が岩礁に乗り上げない為に設置された灯台のようだ。



 北側の遠くには小さな山と森が見えていて、その手前に小さな村が有るようだった。


「漸く村が見えましたね」


「やっと、お風呂に浸かれるわね。…そして、ベッドで休める……」


 ライセルさんは余裕そうだが、カミーユさんはぐったりしていた。普段は。宮廷魔導師団の中でも、後方支援や事務作業がメインで、アクティブに体を動かす方では無いのだそうだ。


 因みにソレイユさんとは、親友で『イリスの事は頼んだわよ~!!』と、念を押されてきたらしく………。



 移動中や夜の合間には、カミーユさんによる魔法講座の開演になったわけである。


「魔法はね、先ずは己の中の魔力の流れを感じる事から始めるの。そして、次に自然界に溢れる魔素と言う魔法の元を感じて集める。そうすれば、己の持つ魔力以上に魔法を扱うことも高める事も出来るのよ」


 と言うわけで、先ずは己の中の魔力の流れの把握から………。


 ハリシュ固有の魔力は、現在魔光源とは別に圧縮して封印している状態になっている。

 うっかりこの魔光源に入れちゃうと、ハリシュそのものになってしまうかもしれないし、やっぱり上位神界うえにバレる恐れもあるからね。

 アヴィスのは、彼女が器の主権を取るか、私が許さない限り振るうことも動かすことも出来ない。


 なので、元々のだけで、見てみよう。


 イリスの最初の魔力検定では、保有属性――水・風。魔力値――極低と、出た。


 この頃は、魔法の魔の字も無かった事だろう。

 その後、アヴィスによって『闇』の魔力を髪に強制的に宿るようにされてしまった。


 恐らく、増え続ける『闇の魔素』への対抗手段とか防衛本能として『聖属性』が目覚めたのだろう。


 学園に通いだして、図書室で沢山の魔導書や文献を読み漁り、独学で『水生成ウォーター』や『風裂斬ウィンドカッター』位なら使えるようにはなっていた。


 しかしながら、やはり流れる量は少ない。


 魔法の使い手には、魔力の根源となる魔光源と呼ばれる機関が存在する。


 その機関の大きさや質でその者の魔力の差が生まれる。


 魔光源の器が大きく、中に入っている魔光素の質が高ければ高いほど、自力で使える魔力が強くなる。


 イリスの魔光源の器自体は、魔力値極低と評された割には大きかった。


 しかしながらこそに宿る魔光源は存在していない………訳では無いのだけど、朧気にしか見えないのよね。


 普段は、自然界の魔素を吸収蓄積した物を使っていただけのようだった。


 だから、自分イリスの魔力の流れと言ってもこれは、中々に理解不能だわ………。


「ちょっと………まだ、掴めきれません………」



「ま、毎日続けて行けば判るようになるんじゃ無いかしら?」


 カミーユさんは、こればかりは感性とか器量の問題で、早くコツを掴む者もいればが悪くて、中々コツを掴めないものもいるのだそう。


「ま、精進有るのみよ!!」


 カミーユさんが、励ましの声をかけてくれて、私もすまなそうに力無く笑った。


「……はい、頑張ります」

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