世界を救うか滅ぼすかの選択を二人の美少女から迫られています。助けてください

雨野愁也

第1話 学校一の美少女

 朝起きて、トイレに行って、顔を洗って、朝飯を食って、学校に行く。いつものことだ。別に何の変哲もない日常茶飯事。

 俺、只野政広ただのまさひろは、どこにでもいるごく普通の高校2年生だ。始業式から一週間、特に俺の周りで変わったことはない。強いて言えば、学校一の完璧美少女との呼び声高い女子と同じクラスになったことぐらいだ。


 彼女の名前は、高嶺花澄たかねかすみ


 ストレートの背中まである長い黒髪に、パッチリとした黒目がちの目。身長はあまり高くない。150センチちょっとぐらいだろうか。胸はあまりない。……本人も気にしているかもしれないから特筆しないけど。筋の通った鼻に、可愛らしい薄紅色のぷっくりとした唇。薔薇色の頰。すらりとした体つき。笑うと見える白い歯。


 ぶっちゃけ言うと、俺の好み超絶ドストライクなのである。はっきり言って、こんなに可愛い子に出会ったのは生まれて初めてかもしれない。さらに、高嶺さんは、勉強もできるし運動もできる。成績は学年で常に上位3位以内に入っているし、テニス部のエースであり、次期部長に指名される可能性も高いそうだ。……まあ、俺は運動部じゃないから、その辺のことはよく分からないけど。あと、駄目押しに、彼女は人当たりも良い。もうここまで言うと、モテない理由が見つからないだろう。で、実際彼女は非常によくモテる。


 そんな完璧な人と比べて、俺は全然さえない、平々凡々な一男子生徒に過ぎない。成績も並、運動神経も並。その上容姿も並……だと思う。自分のことを客観的に見るのは難しいから断言はできないけど。でも少なくとも俺はイケメンではない。それだけは確かだ。


 ともかくも、そんなんだから、俺みたいな何の取り柄もない、没個性的で、存在感の薄い奴に勝ち目はなさそうだ。高嶺さんと俺は、まさに月とスッポンの関係である。


 しかし不思議なことに、今まで誰かが高嶺さんに告白して成功したといううわさを聞いたことがない。彼女に言い寄る奴には、学年一のイケメンや秀才もいるという。その気になれば付き合う相手はよりどりみどりのはずだ。そんな奴らの一体何が不満なのだろうか……?


 昼休み、俺がそんな取り留めもないことを考えていると、突然「只野くん」という声が頭の上から降ってきた。ふと顔を上げると、そこには思いもよらない人が立っていた。


 高嶺さんだった。


「……!?」


 あまりに驚いたので、俺は目を見開いたまま口をあんぐり開け、黙っていた。というか、なんで彼女がいきなり目の前に現れたのかさっぱり分からなかったのだ。


「……お、俺……ですか?」


 このクラスに只野は俺一人だけなのだから、自分のことを呼んでいるのだとすぐに分かりそうなものだが、動揺しすぎて頭の中が訳分からんことになっていたのだ。


「ええ、そうよ。他でもない、あなたに話があるの。とっても大事な話。だから……ちょっと屋上まで来てもらえるかしら?」


 ……はい? 何だって? いやいやいや、何事? 何の話? というか俺に? ……ああ、そうか、これは夢か。夢なんだな。そうじゃなかったらこんな美少女が俺なんかに声かけてくるわけないもん。よし、起きろ、俺。


 俺は思いっきり左手をつねった。


 普通に痛い。


 …………。


「え……話? 俺に、ですか?」


 そろそろ諦めて、俺は現実を受け入れることにした。


「そうに決まってるじゃないの。ほら、行くわよ。もたもたしてたら昼休みが終わっちゃうわ」


 高嶺さんはそう言うと、俺の腕をつかんで引っ張った。華奢きゃしゃな見た目によらず、かなり強い力だった。


「え、あ、ちょっと、待って……!」


 高嶺さんは俺の叫びを無視して、無理やり俺を教室の外へと引きずり出した。その時、クラス中の男子の視線が俺と高嶺さんに向けられているのを感じたが、俺はあえて気づかないふりをして、後ろを振り返らなかった。だってなんか怖いもん。あと、ひそひそ話をする声も聞こえたが、それも全部無視、無視。


 その時、俺と高嶺さんとは別に、屋上へと向かっていた人影があったことに、俺たちはまだ気づいていなかった。



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