第十三話 サヴァロンの心配
アリアがカウンターへ向かってから三十分程が過ぎた。
ギルド店内の賑わいはピークに達しており、掲示板の前が多くの冒険者で混み合いだしたので、グレンは一旦そこから離れた。
暫くして何故か、アリアがレオン達『ヴァルハラ』のメンバーに背中を押される様にしてギルドを出て行く。
それはあまりに珍しい光景だ。
気になったグレンはガイが休憩に入ったのを見計らい、然り気無くアリアとレオンの行動について訊ねた。
「ああ、遺跡の依頼が聖女様に売れたみたいだが。彼女が手続きをしている時にレオンが来てな『レディーが単身で遺跡から荷車運びは大変だろ。俺が協力するぜ!』なんて言い出したのさ。で、結局今日中に皆で行く事になったみたいだぜ?」
ガイはレオンの物真似をまじえて答えた。
全く似ていない……などと思いながらも、グレンは大体の事情が理解出来たのだが、結局アリアが遺跡の仕事を請け負ってくれた事に申し訳ない気持ちになった。
だが、男手が三人もいるならアリア的にはかなり楽を出来るはずだと、グレンは自分を納得させる。
「そ、そうですか……」
「おうよ、あれだけ美人だと他の冒険者に大人気だな」
「そ、そうですね」
「何言ってんだグレン。お前、最近は聖女様に話し掛けてもらってるじゃないか。一体どういう事なんだよ、ん?」
食いぎみに問い詰めてくるガイに「そんな事ないですよ」と否定するグレンの顔は見事な苦笑いだ。
それより、グレンには疑問があった。
依頼の場所──大森林奥の遺跡には、西方大陸に来て間もない頃にグレンも一度だけ地域調査がてら行った事がある。
道中に魔物はあまり出ないが、足元が悪いので普通は片道二日程かかり、往復で四日を費やすのだ。
四日分の旅費をギルド報酬に当てはめると、あの人数で分配したらメリットが殆ど無い。
つまり効率の悪い依頼になってしまうが、レオンのような超効率型人間が手を貸した事がグレンにはかなり意外だったのだ。
とはいえ、気になる依頼もアリアが受けてくれたおかげでグレンの今日の仕事は無くなり、何をして時間を潰そうかと考え始めていた。
そのタイミングで、小綺麗な格好をしたスーツ姿のダンディーな男性がギルド店内に入って来て。入り口付近にいたグレンとガイを見るなり真っ直ぐ二人の所へ向かって来る。
接客が苦手なグレンは静かにガイの後ろへと移動した。
「君達、従業員だね?」
「はい。何かご依頼でしょうか?」
「いや、先週出した依頼について少し条件を変更しようと思って来たのだが」
依頼人が条件の変更を申し込むのは珍しい話だったので、グレンは男とガイの話に聞き耳を立てていた。
「なるほど。ちなみにどの依頼でしょうか?」
「ああ。イルマール大森林奥の遺跡からの荷車の引き上げだが……」
ガイとグレンは思わず顔を見合わせる。
その男こそがついさっき噂していた依頼の主、サヴァロン・デミタスだったのだから驚きだ。
「そちらでしたら、既に冒険者の方が請け負われましたので今から条件の変更は少し難しいですね……」
「いやいや、変更と言っても条件を悪くするわけではないよ。急いで荷物を回収して欲しくて、報酬金を上げようと思っていたのだよ」
「そっちでしたか。お急ぎとは?」
「ああ。実は………」
サヴァロンは荷車に乗ってる荷物を心配していた。
荷物の発掘品には価値のある物が多く、誰かに見付かる前に回収したいらしい。
とはいえ、あの遺跡に人は殆ど近付かないので直ぐに誰かに取られる事はないだろうとグレンは思っていたのだが、サヴァロンは言う。
「これは知り合いの商人の話でね。あの森にシャトルファングのアジトがあるらしい。奴等に見付かり貴重な発掘品を金に替えられてはたまらん……」
『シャトルファング』──世界各地にいる組織的な盗賊団で、追い剥ぎはもちろん。危険な薬の密売や人身売買など様々な悪事に絡んでいる。
中央大陸ではよく聞く名前だが、西方大陸ではあまり目立った話を聞かない。
グレンがこの大陸に来て間もない頃。
打ち切り依頼の遂行中に盗賊団の下っぱと鉢合わせた事があり、依頼達成の邪魔になったので少し眠ってもらった記憶があるが。
それ以降は全く見ていなかった。
「なるほど。でも大丈夫ですよ。請け負われた冒険者の方々は高ランクで、万が一盗賊達と鉢合わせてもなんとかなるでしょう」
「おお、それは頼もしい! ちなみに冒険者の方々はまだ街にいるのかな? やはり急ぎだと言う事は念押ししておきたい」
「おそらくヴァルハラのメンバーなら、出発直前まで隣の酒場にいるんじゃないですかね?」
「なるほど、ありがとう。顔を出してみるよ」
サヴァロンはかなり安心したようで、笑顔で手を振り去っていった。
依頼主が冒険者に直接会う事は規約違反では? とグレンは思ったが、今回の依頼請負人はアリアなので余計な口出しする事なくサヴァロンを見送った。
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