第31話-2 王都のお屋敷 お父様との再会

 私は、自室に入ってケイシーに着替えさせてもらい、父の書斎兼執務室に向かった。

 ちゃんと入室許可をもらい、帰宅の挨拶をする。

「ただいま戻りました。お父様には、ご機嫌麗しく存じます」

 おそろしく他人行儀だと思うけど、他人より遠い存在だ。

 座って書類を見ていた父は立ち上がり

「おお。よく戻ってきた、マリーよ。息災にしていただろうか?」

「おかげさまで、ありがとう存じます」

 父がえらくフレンドリーだ。やっぱり、何かあったのかしら? 先程のジャネット様といい。

 父から座るように促されたので、ソファーに座ったのだけれども……。


「デビュタントの事なのだけどな」

「はい」

 まさか、私のデビュタントがなくなった……とか。

 そんなことは無いか、さっきエイベルお兄様が『エスコートは俺だ』って言ってきたものね。

「ドレスは、王宮で作られてものがこちらに届いている。小物やアクセサリーはマクファーレン殿の見立てだそうだ。まぁ、デビュタントのドレスや小物類は、型がある程度決まっているから、誰が選んでも似たような物になるのだがな」

「はぁ」

 ドレス類は、多分そうなるだろうな、とは、思っていた。

 だって、王宮侍女が私のサイズ計っていたもの。お金はエド様か父が出したのだろうけど。

 

「それでエスコートの件なのだが……」

「エイベルお兄様でしょう? 先ほど、廊下で会った時に言ってました」

「エイベルに会ったのか」

「ええ。でも、あえて言わなくても大抵エスコートは次期当主様でしょう? それか、お父様がなさるか」

 父は、デビュタントの時は謁見の間にいるから、エイベルお兄様しかいないのだと思うけど。

「それがな。クレイグはどうかな? と、思ってな」

「グレイク……お兄様、ですか? でも、あの方はジャネット様の……」

 父は、何を言いたいのだろう。私が捨て置かれた存在だから? だから、愛妾の息子のエスコートで良いと?


 いや、そんなはずはない。家の中だけならまだしも、公の場だ。

 しかも、デビュタントのエスコート役をしないというだけで、婚約者のエド様も会場に来る。

 そんな公の場で、家庭の内情を暴露するような父ではない。

 だから、前回も王宮では私の良き父を演じていたのだから。


「わたくしが、できそこないの娘だからそのような……」

 手を口元にあて、うつむいて見せた。父からの反応を待つ。

「そういう事はやめなさい。マクファーレン殿に失礼だろう」

 ああ。自分を卑下すると、所有者のエド様の価値を下げることになるのね。

「あれも、いつまでも日陰の身で置いとくのも……と思ってな」

「だからって、わたくしのエスコートをさせなくても……」

 確かに、エイベルお兄様のエスコートも気が重いけど、愛妾の息子だなんて、型破りどころの騒ぎでは無い。

 お父様は、お兄様方の跡継ぎ争いを見たいのかしら……。


「まぁ。決めるのはマリーだがな」

「わたくし、でございますか? お父様でなくて?」

 まさか、兄と私が仲が悪いからって……私の我儘でって事にしたいのね。

「ああ。それに今、伯爵の爵位を国王陛下に申請中なのだ」

「クレイグお兄様が伯爵……に? で、ございますか」 

 聞いたことが無い……何の功績もなく、このハーボルト王国で愛妾の子が上位貴族の爵位を授かるなんて……。


 私は、マナー違反だとわかっていながら、父の前で深くため息をついた。

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