第9話 わたくしの、お部屋

 私のお部屋は3階にあるのね。


 柔らかな光が入った明るいお部屋。大きめの窓。バルコニーには観葉植物が沢山置いてある。

 お部屋自体は、とても落ち着いた感じがするわ。ベージュを基調にした。

 あら? お部屋の横の扉は何かしら。

「ジュード、あちらの扉は何かしら? 使用人控え室?」

 いやいやいや、寄宿学校の寮やお城のゲストルームじゃあるまいし……。

「あちらは、寝室になっております」

「まぁ。寝室……」

 そう、寝室が別にあるのね。そういえば、このお部屋ベッドが無いわ。

 そう思って、そちらの方に行こうとしたら……コンコンとノック音がする。


「入りなさい」

 私では無く、執事のジュードが返事をした。

「失礼致します」

 そう言って、三人の女性が入ってきた。いずれも、紺色のメイド服を着ている。

 年配の落ち着いた感じの女性が挨拶をしてくる。

「侍女頭をしております。イライザ・ヘイマーと申します。よろしくお願い致します。こちらの二人が、マリー・ウィンゲート様のお世話をさせて頂く者たちでございます」

「ベッキー・ウォルシューでございます」

「ナディア・モルトハウスでございます」

 侍女頭から紹介された二人は、ものすごく緊張しているみたいだった。

 歳は、ケイシーより少し下かな? って感じがする。

 ここ、エド様が昇進する前は、伯爵家だったんだよね。

「そう。マリー・ウィンゲートよ。よろしく」

 一応は、形式通りに私も挨拶をする。

「「よ……よろしくお願いします」」

 二人とも、思いっきり頭を下げて挨拶をしてきた。

 ……いや、あなたたちリンド夫人に頭下げすぎって怒られるからね。まぁ、侍女相手にそんな教育しないわよね。


「わたくしが連れて来たケイシー・オルコットは……」

 侍女頭のイライザに訊いてみる。私付きから外されたら非常に困るわ。

「今日明日で、このお屋敷のことを覚えて貰ってから、マリー様にお返ししようと思っておりましたが。何か、不都合でも、ございましたでしょうか?」

 不都合……ん~、仕方無いわね。ケイシーも、ここに馴染まないと動きが取れないでしょうしねぇ。

「いえ、かまわないわ」


「アリシア・リンド様から、伝言で、マナーレッスンは明日の午前中から致しますとの事でしたが」

 げっ、明日から…………し、仕方無い……わね。

「わかったと伝えてちょうだい」

「かしこまりました。それでは、わたくしはこれで失礼致します」

 侍女頭が私に礼を執り、お部屋を出て行った。執事も同様にして、行ってしまった。


 侍女二人と私が部屋に取り残されてしまう。

 今まで、ウィンゲート公爵家のお屋敷では、ケイシーしか侍女がいなかったから。いえ、大勢いるにはいたのだけど、私のお部屋に近付かなかっただけ……。

「あの……」

 着替えさせて貰おうと、侍女に声をかけると、ビクッとなった。

 怯えられてる? それとも、すでに嫌われてる……とか。

 例え、嫌われていても、仲良くしなくっちゃ。私は、ニッコリ笑って言う。


「ベッキーとナディア、これからよろしくね。私、ここに来たばかりで何も分からないの。色々、教えてくれると助かるわ」

「こ……公爵令嬢様に……そんな」

 もごもごと、ベッキーの方が言ってきた。ああ、そういう事なのね。

「あら、私。もう、公爵令嬢じゃ無いわ。1年も経たずに辺境伯夫人になるのだもの。仲良くしていきたいわ」

 そう言ったら、二人の顔がパァッと明るくなった。

「こちらこそ。仲良くしたいです。お嬢様は、嫌々ここに来たわけでは無いのですね」

 ナディアの方が、言ってきた。

「ものすご~~~~く。楽しみにしてきたのよ、私。エド様のご領地がどんなところなのかしらって、色々教えてね」

「はい。もちろんです」

 ニコニコ笑って、ナディアが言ってくる。


 ベッキーは、コホンと咳払いをして、ナディアに言う。

「ナディア。取りあえず、仕事をしてちょうだい。マリー様、お召し替えを致しましょう」

 ナディアの方には、厳しい口調で、私にはにこやかに言ってきた。

 なるほど、ベッキーの方が先輩なのね。しっかりしてるわ。

「おねがいね」

 私の方も、にこやかに返した。

「かしこまりました」

 口調は、主人と使用人だけど。和やかな雰囲気になっていた。

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