御伽殺人
Chiara Wednesday
第1話
日没が近付くにつれて、この時期は綺麗な橙色の夕焼けが空を覆い尽くしていく。鳥たちは帰巣すべく鳴き声をあげ、僕達はとある議式のための準備に追われていた。
僕がいるのは、街の外れにある森、そこに人目に触れないようにひっそりと建てられた、大きな屋敷だった。
この広大な屋敷の中はガラス窓から差し込む光で明るくもどこか薄暗く照らされており、昼間の姿とはだいぶ違った印象すら受ける。飾られた絵画も、ステンドグラスも、見なれたはずの装飾はそれまでとは違う哀愁漂う美しさを醸し出していた。
最後の晩餐にもよく似た大きな絵画が飾られた玄関ホール。僕はそこで魔法陣を描いているのだ。直径5~6メートル程の、白いチョークで描かれた魔方陣に、細かくルーン文字を刻んでいく。作業は常に孤独で、気の遠くなりそうなものだった。
「あと、どれ位かかりそうかな?」
ホールの両階段を登った先にある踊り場から、見下ろすようにして男性が立っていた。男は5~60代半ばだろうか。銀色の髪と髭に、老眼を補うべく掛けられた黒縁のメガネは、彼を構成する立派なトレードマークだ。
「少なく見積っても、あと1時間はかかりそうです」
「そうかそうか、客人を迎えるための料理も丁度間に合いそうだな、頑張ってくれ、サレザ。君がこのパレードの主役だ」
「はい、エイドフ卿」
エイドフ、という男は踵を返して屋敷の奥へ戻って行った。
余計な邪魔が入ったためか、集中力が削げる。僕は汗を拭い、魔方陣の横に置かれた4つの黒い物体に視線を移す。
それは、紛れもなく中身の入った死体収納袋だった。分かってはいても好奇心は抑えられない。僕は一番手前の袋のジッパーを開け、中身を確認する。
中からは、12〜3歳ほどの色白い女児の顔が覗いた。もちろん、息をしていない。
この子達は不慮の死によってこの世から生を剥奪されたのだ。そう思うとより罪悪感を感じてしまった。
僕はジッパーを閉じると、再びチョークを握った。
これからする行いが、人類の為であると信じて。
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