第12話 窮地
広場にある絞首刑用の台に吊るされているケルノス。既に満身創痍の状態にあった。
「どんな気分だ? いつも自分が使っている器具に、本当に殺されるために吊るされているこの状況は」
「…………気づいていたのか」
「当たり前だ。まぁ、怪しいと感じ始めたのは最近だが。そういう意味で貴様は上手くやっていたよ。まぁ、虫ケラ一匹の為に本性を表す甘さが無ければ更に良かったがね」
カミナ達がケルノスとの約束のために街を離れた後、クレア達の脱走に気付いたムーラは街中に使徒を展開。
一緒に捕まっていた子供は親と共に隠れていたが、草の根を分ける様な探索から逃げ切る事は出来なかった。
親子共々、即座に広場に連行され、いつもの様にケルノスが処刑を執行しようとした時、ムーラから待ったが掛かる。
「そろそろ首吊りも飽きた。今日は私が直々に処刑してやろう」
「!? いえ、わざわざムーラ様のお手を煩わせる必要はありません。いつも通り、私が」
「まぁ、そう言うな。確かに貴様の絞首は芸術的。だが、いつもキレイな料理ばかりでは飽きるだろう? たまにはジャンクフードも食べたくなるものだ」
広場中央の台座に座ったまま、ムーラが手を動かす。見た目には全く手を触れていないのに、吊るされた子供が苦しみ始める。その姿を見て絶叫する母親。
「はっはっは! 良い、実にイイ! 目の前で我が子が苦痛に悶えながら死んでいく姿を見るしかない親。実にそそる」
(これ以上は…………)
意を決したケルノスはムーラ目掛けて自身の能力である糸を飛ばす。背後から高速で放たれた鉄をも切り裂く強靭な糸が完全にムーラを捕らえた。
かに見えたが、糸を絞めた瞬間にムーラーの体は幻の様に消え、ただローブを締め上げているだけだった。
(チッ、やはり手応えが無い。私の能力ではコイツを殺すことは出来ないか)
「化けの皮が剝がれたな」
突如として背後に現れた黒い粉塵。それが瞬く間にケルノスを包み込む。黒い粉塵がローブの元に戻った時、既にケルノスはボロボロになっていた。
(クソ。せめてあの親子だけでも)
残った力を振り絞り、親子が吊るされているロープに糸を飛ばし、切断する。
「走れ! とにかく逃げろ!!」
子供を抱え、全速力で逃げる母親。公開処刑は街の人間全てが強制参加させられていた事が幸いし、親子は群衆に紛れて姿を消すことが出来た。
「お~、上手く逃げるね。非なんて全部同じゴミにしか見えないから、探すのが難しいものだ。まぁ、あんなのは後で良い」
台座から降り、地面に倒れているケルノスの元に向かうムーラ。
「あんなゴミより、美味しそうな狸が獲れたからな。先に貴様からじっくりと嬲り殺しにしてやろう」
それから約20分。ムーラは死なないギリギリのラインでケルノスをいたぶり続けている。普通の人間ならとっくの昔に死んでいるが、ケルノスは使徒。更にその中でもかなり上位の強さを持っている。だが、それゆえに簡単に死ぬことも出来ないのだ。
「そろそろ飽きて来たな」
今まで以上の密度で黒い粉塵がケルノスに向かった瞬間、彼を吊るしていたロープが切れ、ムーラの前から姿が消える。
「なんだ! どこに消えた?」
群集を抜けた先に、ケルノスを抱えているカミナの姿があった。
「間一髪か」
「…………神殺し。なぜ帰って来た」
「お前が死ぬのは惜しいと思ってね。ここに置いてくから、後は自分でどうにかしろよ」
ケルノスを地面に降ろし、ムーラの元に進むカミナ。
「や、やめろ。ムーラはアナタが殺した奴とはレベルが違う」
「まぁ、任せとけ。黙って見てろ」
カミナの歩に合わせて、自然と群衆の中に道が出来る。
「貴様、何者だ? 私の邪魔をして。覚悟は出来ているんだろうな」
「俺はカミナ。神殺しだ」
「神殺し? おいおい、正気か? ギャグにしてはセンスが足りんのぁ」
ムーラが喋り終わるのを待たず、カミナの拳が顔面部分を捉える。が、やはり一切の手応えが無い。
「無礼な奴だ。普通は話し終わるまで待つだろう」
「拷問大好き変態野郎に尽くす礼は持ち合わせてないんでね」
「口だけは達者みたいだな。しかし、今の攻撃で分かっただろう? 貴様の拳は私に触れることすら出来んのだよ」
(確かに、全く手応えが無かったな)
手に少し残っている粉塵。
(…………砂? いや、砂鉄みたいなものか。それにしても粒子が細かいな)
「考えているようだが、今度はこちらの番だ」
ケルノスにしたのと同じように、無数の黒い粉塵がカミナを包み込む。その粒が一つ当たる度に、金槌で殴られた様な衝撃が襲う。
(このままだと面白くないな)
カミナは孔雀掌を放つ。当然、ムーラにダメージはないが、その風圧で粉塵はカミナの周りから離れる。
「何をしたかは知らんが、私の粉塵を払いのけるとは。少しは楽しめそうじゃないか」
ムーラは自己陶酔しながら続ける。
「そう、私こそが『粉塵のムーラ』。強く、そして聡明。神人の中でも抜けた存在。神の直属となる日も遠くないと…………」
延々と話すが、カミナは一切聞いていない。
(孔雀掌でも駄目か。粉塵がアイツ自身なら少しはダメージがあるはずだ。他に考えられることは…………)
「おい!貴様。今の私の崇高な話を全く聞いてなかっただろう? 本当に無礼な奴だ」
「あん? あぁ、悪い悪い。聞いてたさ、気持ち悪いナルシスト」
「…………どこまでも私を侮辱するのだな。良いだろう、しっかりと嬲って殺してやるわ!」
今までで一番密度の高い粉塵がカミナを襲う。
「はっはっは! どうだ、密度を高めた粉塵はその威力も格段に上がる。さっきの様に傷を負うだけでは済まんぞ。多少は丈夫なようだがな」
(クソ、このままでは神殺しが。しかし、私にはどうすることも)
「あれ? ケルノスさん! よかった、無事だった…………ってこともないか」
喧騒の中、クレアとラナが広場に現れる。
「ヒドイ怪我じゃないか。でも、生きてて良かった」
「アナタ達、なぜここに? 見つかれば殺されますよ」
「なに水臭いこと言ってんだい。アンタがどれだけ一人でこの街のことを考えて、背負って来たか聞いたよ。少しだけどアタシにも背負わせとくれ」
「ラナさん」
「さぁ、少しでも安全な所に行って手当しないと」
ケルノスを担いで行こうとするラナとクレアの前に数人の使徒が立ちふさがる。
「あれ? コイツら捕まえるように命令が出てたヤツらだ」
「おお、そうだ。捕まえてムーラ様に…………。今なら良いか」
「あぁ、今ならどさくさに紛れて殺しちゃいましたで許されるって」
「ここんとこ非で遊んでなかったからな。ケルノスも居るし、ちょうど良いや」
「俺もコイツ嫌いだったんだよ。一人だけイイ子ちゃんして、マジメな顔しやがってよ」
「こんだけ痛めつけられてりゃ、抵抗も出来んだろ。つーことで、やっちまえ!」
クレア達に襲い掛かる使徒。普段なら助けに現れるはずのカミナは、ムーラの粉塵に捕らえられ攻撃を受け続けている。
この窮状を打ち破ることは出来るのだろうか。
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