第8話 旅立ち
町に帰ったカミナの目に、思いもよらない光景が飛び込んでくる。クレアとシンが泥だらけになっていそいそと動き回っているのだ。
「あ、カミナ。……お帰り」
「あぁ、ただいま」
カミナの表情、雰囲気から死の恐怖を感じることはない。ただ、服に付いている返り血とその匂いが全てを物語っていた。
「ありがとう」
「いや」
カミナは複雑な表情を浮かべ、言葉少ない。仇を討つことは出来たが、それで死んだ者たちが帰ってくるわけではない。自分がもっと早くダムの意図に気付いて町に残っていれば。考えても仕方のない後悔が頭にこびりついて離れない。
「……どしたの? どこかケガしてるの?」
「あぁ。いや全然、無傷だ。ところで何でそんなに泥だらけなんだ?」
「ん? 町の人たちのお墓を作ってたの。土をかけてるだけだけど。シンも手伝ってくれてるんだよ」
そう言いながらクレアとシンは作業を続ける。
「ちゃんとしたお墓は建ててあげられないけど、このままじゃ良くないと思ってさ」
ジッとしていると悲しみに押しつぶされそうになるのだろう。健気に動くその姿に、悲しみと強さを感じるカミナ。
「よし、俺も手伝うぜ」
見える限りの亡骸を埋葬した二人と一匹。
「これでゆっくり休めるかな」
「あぁ、そうだな。きっと…………」
「後は父ちゃんだけ」
ダムの元に来て、クレアは動くことが出来ない。無理も無い、まだ少女だ。自分の手で父親の亡骸に土を掛けて埋葬することなどそう簡単に出来ることではない。
「クレア、無理すんな。俺がやるから」
「……ダイジョブ。私も手伝う」
ダムの埋葬をしている最中も、クレアは一切涙を流さなかった。
「これで父ちゃんもゆっくり休めるね」
「……そうだ。クレア、これ」
カミナはダムの首に掛かっていたペンダントをクレアに手渡す。それを受け取りしばらく見つめた後、堰を切ったようにクレアの瞳から大粒の涙がこぼれ始めた。父親の死。どこか現実として受け入れていなかったことが、ここに来て嫌になるほど明確な現実として襲い掛かって来たのだろう。声にならない声で泣くクレア。その悲しくも美しい涙と相反する血の匂い。突然降りはじめた雨が、どちらも巻き込み洗い流していった。
しばらくして雨も上がり、嘘のような晴れ間が広がっている。
「上がったか」
「雨があがった後って、なんかスッキリしてるよね」
涙が枯れるほど泣いたクレアの表情は、どこか吹っ切れたものになっていた。飲み込み切れるはずのない悲しみではあったが、正面から向き合い受け入れていくことにしたのだろう。
(本当に強い子だ)
「ねぇ、カミナはこれからどうするの?」
「ん? 特に何にも考えてなかったが。とりあえず神都って所に行ってみるかな」
「じゃ、私も連れてってよ。あ、もちろんシンも一緒に」
「そうだな、ダムとも約束したし。クレアがそうしたいなら」
「ホント!? やった~」
こうして彼らの神都を目指す旅が始まった。
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