第32話 世紀の大泥棒の力を見せつけてやろう
汚れた英雄たちに見え隠れする亀裂の深さは、おそらく想像以上だろう。
とはいえ、まだ満足できるはずもない。早くやつらに思い知らせてやりたいという気持ちとともに俺は朝を迎えた。
「……」
右手にはしっかりとあの手袋が装着されていたので安心する。周りになんと言われようと、俺はこれで奪い続け、水谷皇樹、白崎丈瑠、河波琉璃……やつらに俺が受けた苦しみを味わってもらわねば……。
「あ、真壁兄貴、おはようでやんす!」
「お、コージ、もう起きてたのか」
「師匠より先に起きてなかったらもう弟子とは呼べねえかと……」
「そうかそうか」
コージは本当に意識が高い。実際にグレーカードのCランクなだけある。
「ほら、六さんもいい加減起きるでやんすよ!」
「う……おいどん……もう無理でごわす……」
「……」
六さん、またサングラスつけたまま仰向けで寝てるな。これじゃ寝起きが悪いのも仕方ない。
「まあ、寝かせといてやろう」
「へ、へい――」
「――おはようですっ」
「「あ……」」
ガラガラとドアが開き、鑑定士の館花理沙が入ってきた。お盆に載った朝食の数々、美味しそうだな。ご飯に納豆、味噌汁、たくあん、緑茶……。
「……」
俺だけたくあんがハート型なのが超恥ずかしいわけだが……。
「ズズッ……いただくでやんす」
「お、おいっ」
「ズズッ。おいどんもっす」
「って、六さんまでっ!」
六さんも普通に味噌汁を啜りつつたくあんを奪ってくるし、一体いつの間に起きてたんだと……。
「うふふ……ごゆっくりどうぞ♪」
理沙が出ていったと思ったら箒で掃く音がして、窓から見下ろしてみるとやっぱり鬼婆がいたわけだが、近くの電信柱の陰から流華が監視してるのを隠す様子もなくこちらを見上げているという、なんとも相変わらずな光景が広がっていた。
「――それで、今日は何をするでやんすか、真壁兄貴?」
「んー……そうだなあ……」
正直、今のままでも英雄たちと真っ向からやり合える自信はあるんだ。何故なら、究極の体術である《浮雲》に加え、最強剣術の《枯葉》、さらには最高の筋力、顔面……何より相手の一番のお宝を盗めるS級アイテムの手袋ときたら、これ以上手にするものなんてないようにも見えるが、俺はそこで一切手を抜くつもりはない。
「最高の攻魔術を持ってるって噂の講師がいてな、そいつがいるリトルアカデミーへ行く。あの英雄の一人、河波琉璃の師匠だ」
「え……ええっ!? マジでやんすか、兄貴……?」
「ん? コージ、何か都合が悪いのか?」
「だって、ほら……例の道場破りの件が続きやしたでしょう。いずれも英雄たちの師匠がやってる道場が潰されたっていう……」
「あ、ああ、まさかそれに影響を受けてリトルアカデミー辞めてしまったとか……?」
「いや、今もやってるそうでやんすが……かなり警戒されてて、弟子も募集してねえみたいでして……」
「なるほど……」
まあそうなるか。しかし、まだやってるなら望みはある。
「それでも空いてるんだし、見学くらいはできるんじゃ?」
「無理かと……。弟子を含めて、むしろ道場破りを待ち構えてて、みんなで英雄の師の仇を討とうみたいなえげつねえ空気になってるって聞きやした……」
「そりゃ面白い。とりあえず行ってみるか」
「え、ええ……いくら兄貴でもやべえんじゃないかと……」
「コージ……心配する気持ちはわからんでもないが、そんなに弱気じゃ俺の弟子なんて務まらんし、せがれの仇だって取れんぞ……」
「そ……そうっすよね」
「コージどん、おいどんも真壁どんならやれると思うっす」
「あぁ、やれるさ。世紀の大泥棒の力を見せつけてやろう」
「わ、わかりやした……」
「合点」
こうして、俺はコージと六さんを引き連れてリトルアカデミーへと出発したのだった……。
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