第14話 自分でも寒気がする台詞だ
「愛してます! もう放しませんよ!」
「……」
理沙という、年齢と見た目が乖離したロリっ子に抱き付かれる。とても幸せそうだしこっちも悪い気はしないが、俺に恋愛する気はまったくないからな。
どうしようか……。ひとまず安心させておいて、それから隙を見て逃げ出すか。俺がいなくなれば熱も勝手に冷めるかもしれない。
というか……近くで思いっ切り目をギラつかせた婆さんと、六さんとかいうグラサンの男に見られてるんだが……。俺にその気がないのが透けて見えて不安なのかもしれない。こうなったら二人が安心するような演技をしないと。
「り、理沙、俺もお前を絶対に放さない……」
「はい……」
思わず歯軋りしてしまった。自分でも寒気がする台詞だ……。
「……ふうぅ。いいもん見たよ。六さん、あとは若いもん二人に任せとこうかね」
「はいっす」
よし、二人とも店から出て行った。あとはこの子をなんとかすれば……。トイレに行くとか言って、そのまま逃げてしまおうか。でもすぐにそれをやってしまうと疑われそうだし、しばらくはこの状態でいよう。
「あ、あの……」
「え……」
信用させるために見つめ合ってると理沙が目を瞑ってきた。なんだ? まさか、キスでもするつもりか? 期待してるのか? 勘弁してくれ。ゾワゾワする……。で、でも、キスをしないと疑われるかもしれないしな。仕方ない。ここは、キスくらいはしておかないと……。
俺は覚悟を決めて、理沙の震える手を両手で握りしめた。思えばこれがファーストキスになるんだな。こっちが緊張してきた……。
「……ど、どなたですか?」
「……は?」
彼女はきょとんとした顔で俺を見ていた。なんか知らんが……元に戻ったらしい。おいおい、どういうことだ……?
◇◇◇
「――そう、だったんですね……」
このままじゃ俺はただの不審者にしか見えないってことで、これまでの経緯を簡単に説明した。16歳とはいえ、この子は見た目が中学生並だし話しても大丈夫だろう。
「ふむふむ……確かに、これは凄い手袋ですね!」
「盗めること以外、ほかに何かわかったのか?」
鼻が触れるほど手袋に顔を寄せてるな。
「はい。一応鑑定士なので!」
「鑑定士……」
確か、鑑定士ってのはアイテムを鑑定するだけでなくその売買にも関わるんだっけか。中には本来の力が封印されたものや偽物も多くあるので、正規の鑑定士にはよほどの才能がないとなれないって聞いたことがある。
「……多分、あなたはこの手袋で返却……したんだと思います」
「返却?」
「盗んだときに触れた箇所にもう一度手袋で触れると返却できるみたいですよ」
「へえ……」
そういや、無意識に彼女の手を握ってしまった。同じ箇所だと、さらに奪うんじゃなくて返却するのか……。
「あの……」
「ん?」
「お恥ずかしいことをして、申し訳ありませんでした!」
引くほど勢いよく頭を下げられてしまった。
「い、いや、別に怒ってないから」
「本当ですか? ふぅ、ほっとしました……」
文字通り胸をなでおろしてる。なんか見た目だけじゃなくて仕草も子供みたいだ。
「それにしても、こんな凄いアイテムを鑑定できる日が来るなんて思いませんでしたよ……」
「そ、そうか、よかったな」
「はい!」
まあS級アイテムだからな。それを鑑定するんだから鑑定士冥利に尽きるってわけだ。
「それじゃ、俺はこの辺で……」
「あっ……」
「ん?」
ああ、そうか。鑑定料払わないとな。それと迷惑もかけたし少し追加しとくか。迷惑料だ。
「いくらだ?」
「え、そんな、お金なんていただけませんよ」
「ん?」
じゃあなんで呼び止めたんだろう。
「あの……。その手袋……」
「ああ……」
なるほど、この手袋を買い取りたいのか。これなら滅茶苦茶高く売れそうだが、さすがに売るつもりはない。金が必要なら、これで奪えばいくらでも手に入る。何より金が大事なやつなんていくらでもいるだろうしな……。
「悪いが、これは譲るつもりはないんだ」
「違うんです。今すぐ処分してください」
「え……?」
なんだ……? こっちがはっとするほどに彼女は真剣な顔をしていた。
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