第12話 ここまで素直でいい子は今時珍しいもんだな
S
よく考えるとこれってカウンタースキルなんだよな。防御にはいいが自分から攻撃するのには向いてない。単体を破壊するのに一番適しているのはやはり剣術だろう。
体術もそうだが剣術の道場も多いと聞く。ダンジョンに行く以上、モンスターだけでなく対人も考慮しないといけないわけだしな。元仲間の水谷のやつが通ってた一際有名な道場があったはずだ。そこに行くか……。
もちろん地道に剣術を学ぶつもりなんて毛頭ない。人生ってのは短いんだ。努力なんて今の俺にしてみたら時間の無駄でしかないからな。隙を見て強そうなやつから盗むだけの話。俺がやってるのは道場破りに等しいわけだが、正直水谷みたいな下種が英雄として奉られてるようなところは潰れても構わんだろう。
「……?」
ん? 今視線を感じたような……。
……って、なんだ。俺がマスクを外してたからかな。イケメンから盗んだこの端麗すぎる顔に惚れたらしくて、女の子たちの熱い眼差しがガンガン伝わってくる。うわっ、中には男もいるな。なるほど、マッチョだからか……。もちろん俺にそんな趣味はまったくないが。
……んー。けど、最初に感じた視線だけは異質だったような。なんていうかこう、冷水でも浴びせかけるような感じだった。
何者なんだろう? 気配の強さから考えると一般人ではないように思う。俺に恨みがあるやつなんて今のところ潰してるし大丈夫だとは思うが、また殺し屋か何かを差し向けられる可能性もあるわけだし用心に越したことはないな。ま、俺には最強のカウンタースキル《浮雲》があるから平気だが……。
「――きゃあっ!」
悲鳴が聞こえたときにはもう、俺の近くで誰かがくるっと回転していた。おいおい、早速刺客が来たか……って、子供だと……?
「うう……」
スカートがめくれて、白いパンツ丸出しでうつ伏せに倒れているのは14歳くらいの少女だった。ロングヘアの髪が痛々しく地面に散らばっている。
さすがにこれは雇われた殺し屋ってわけじゃなさそうだな。いくらなんでも幼すぎる。偶然ぶつかろうとしたところで《浮雲》によって避けた上にぶん投げてしまったようだ。
「大丈夫か?」
「は、はい……」
俺はなんも悪くないが、このまま無視するのもなんか気の毒だしとりあえず起こしてやることにした。
「ありがとうございます!」
「……あ、ああ」
へえ。手を差し伸べてやると笑顔で応じてきた。垂れ目のおっとりした感じの子だった。
ここまで素直でいい子は今時珍しいもんだな。しかも顔も可愛くて人形を思わせる。仮に睨んできたり文句を言ってきたりしたら、子供とはいえ一番大事なお宝を奪う気になっていたかもしれない。
今の俺に怖いものなんてありゃしないんだからな。さすがに英雄クラスに手を出すことにはまだためらいもあるが、むかつくやつは俺の視界から即座に退場してもらう。
「大した怪我もなさそうでよかったな。真っ白なパンツはみんなに見られてたが、それくらいまだお子様なんだから平気だろ。これからはちゃんと前を向いて歩けよ。それじゃ、俺はこの辺で――」
上機嫌で女の子に背を向けたとき、俺はあることに気付いた。
……ま、まずい。手袋をつけたほうの手で彼女を起こしてしまった……。
「あの……ちょっといいですか?」
「……」
一体、俺はこの子から何を奪ってしまったんだ……? 妙な気配を感じつつ、俺は恐る恐る振り返った。
「好きです、付き合ってください!」
「……へ?」
ちょうど人の往来が多かったせいか、女の子の唐突な告白に周りにいたやつらが立ち止まってどよめいている。どうやら俺はこの子のハートを盗んでしまったらしい……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます