やつはとんでもないものを盗んでいきました。それは相手の一番大事なものです。
名無し
第1話 俺って馬鹿にされやすい体質なんだろうか
「あれ……もしかして真壁ちゃんって、このパーティーに必要ないんじゃない?」
「……」
駅前ダンジョン入口付近、思い出したように言うパーティーメンバーの水谷にカチンと来た。俺がどれだけ防魔術に神経を使ってると思ってるんだ……。
「役に立ってないっていうなら、詳しく説明してくれよ。できるだろ、水谷」
「んー……真壁ちゃんは役に立ってないってほどじゃないけど、代わりなんていくらでもいると思うし、浮いちゃってて存在感もまったくないし……」
「……」
「この世にすら必要ないかも……」
「はあ?」
さすがにこれには我慢できなかった。
「水谷、いい加減にしてくれ……。何度も言わせるな。俺が役に立ってないっていうなら、どこをどうしてほしいのか具体的に言えよ!」
「ん? そんなに睨むなよ、真壁ちゃん。ただの冗談だよ、ごめんねごめんね」
馬鹿にするような笑みを向けてくるこの男を殴り、パーティーを抜けることができたならどんなに楽だろう。でも仲間なんだしそれはできない。
思えばこの
俺より5歳も年下の癖に気分次第で小ばかにしてきて、怒れば冗談といってかわしてくる厄介なタイプだ。俺を弄って喜んでいる様子だが、最近はさらに過激になっている。
やつはパーソナルカードをミラーモードに変更すると、それを見ながら口笛を吹きつつ、癖のあるミドルヘアーを弄り始めた。どうせ、ダンジョンに行く時間まで女の子とデートでもするつもりなんだろう。
「んじゃ真壁ちゃん、時間までちょい遊んでくるわ。《加速》頂戴ー」
「……あ、ああ」
《加速》なんて掛けたくなかったがするしかなかった。今じゃ完全に立場は逆転してしまってるからな。
俺は戦闘が苦手だから、速度や防御力、体力等を向上させる防魔術くらいしか習得してないが、あいつは単体に対する破壊力抜群の剣術を習得している。ときどきサボるがそれを補えるほど強い。
何より性格が違う。あいつはコミュ能力があるが俺にはまったくない。このパーティーの中で自分の立場はもはや最下層で居心地も悪いが、ここを離れることへの不安のほうが大きかった。
「おーい! 真壁!」
「あ……」
この声は……パーティーメンバーの一人、
「真壁、もう来てたのか」
「ああ、水谷も来てたんだがどっか行った」
「そうか……って、どうしたんだよ、真壁。顔が赤いぞ?」
「……長風呂しちゃってな」
「風呂、ねえ……」
丈瑠は今やパーティーの要ともいえる存在になった。年齢は水谷より一つ若い19歳だが体術の鬼で、身を挺して仲間を守ることができる頼もしいやつだ。この男ほど体力があって硬いやつを俺は見たことがない。体もごついし、顔も俺とは正反対で外人のような顔だ。女性顔負けの長い髪が妙によく似合っている。
「どうせまた水谷におちょくられてカッカしたんだろ? あいつの言うことなんて気にするなよ」
「……あ、ああ」
あんたは平気だろう。あそこまで失礼なことを面と向かって言われることもないんだから。心の声が虚しく響く。俺って馬鹿にされやすい体質なんだろうか。確かに浮いちゃってるのかもしれない。
「やっほー!」
陽気な声を飛ばしてきたのは、セミショートの髪型がよく似合う
「遅れちゃったー。丈瑠君、真壁君、もう来てたんだね!」
急いできたのか、琉璃の額が汗で濡れている。
「琉璃、また寝坊か? 相変わらずだな」
「いたっ!」
丈瑠に頭を小突かれた琉璃が頬を膨らませた。
「もー! 丈瑠君嫌い! 真壁君は優しいから好き!」
「ちょ、ちょっと……」
琉璃に腕を組まれて、俺はしどろもどろになってしまう。前はよくやってたんだが、久々だから妙に緊張してしまった。というか、胸が当たってるんだが……。
「へっ。俺もお前なんて嫌いだけどな!」
「丈瑠君ひどーい!」
俺は知ってるんだ。この二人が相思相愛なのを。でも知らない振りをしていた。関係を壊したくなかったってのもある。こっちが気を遣うことで相手も重く感じるかもしれないからだ。
水谷と違って、この二人とは良い関係がそこそこ続いているんだ。俺のパーティー募集チャットに最初に入ってきたのが白崎丈瑠で、今じゃ考えられないがガリガリの臆病な男だった。しかも敬語だったんだよな。
そのあとに出会ったのが河波琉璃で、誰にでも優しい子だから奥手な丈瑠ともすぐ仲良くなれた。今じゃ二人は相思相愛。俺はずっと片思いのままだが……。
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