休日

 休日になるとどこかにでかけたくなる。と言っても、そんな遠くに行きたいわけではない。狭苦しい「家」という空間から逃げ出し、やらなきゃいけないことから目をそらすため、どこかにでかけたくなる。

 ふと、駅前の喫茶店に新作のフラッペが出ていたことを思い出す。

 そうだ、あれを飲みに行こう。

 駅へと続く桜並木はもうすっかり青々とした葉でいっぱいだった。ほんの少し前まで一面淡いピンクだったのに、季節はすぐに変わっていく。

 けれども、君はまだ帰ってこない。

 爽やかな緑色の風が木々の間をすり抜けていく。歩くスピードが早くなってしまうのは、先週買ったばかりの新しい靴のせいだろうか。

「あ、猫」

 道路を茶色い猫が横切る。

 思えば君は猫みたいな人だった。

 どこかふわふわとしていて、日向がよく似合っていた。それも、太陽がさんさんと降り注ぐような日向ではなくて、葉っぱの間から溢れ出たような光とか、ガラス越しの日差しが似合う人。柔らかい太陽の光を浴びて、目を細くして笑う君は猫そっくりだった。それに、好きなものを見つけたら一瞬で飛びついて目をキラキラさせていたところや、そっけないようでとても気を使ってくれていたところとか。ゆるい天然パーマのかかった、男子にしては少し長めな柔らかい髪もまるで猫のようだった。

 ふらりとどこかに行ってしまうのはやっぱり猫だからだろうか。でも、そんな君が好きなのだ。

 だけれども、少し寂しい。

「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」

 喫茶店の注文カウンターで、顔が良い部類に入りそうな男性が、営業スマイルを浮かべて決り文句を並べる。

「新作のやつ、ください」

「かしこまりました」

 そんな店員の営業スマイルを見ていると、君の自然な笑顔が見たくなる。

 君はクシャッと顔をしかめて、元々細い目を更に細い線のようにして笑う。その笑顔をみるとなんだか私も嬉しい気分になるのだ。

 いつになったら会えるのだろう。考えてもわかるわけがないのに、ずっと考えてしまう。

 ああ、早く君に会いたい

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