『宇宙人からの詫び』

 「母さん、元気ですか?体調はどうですか?相変わらず仕事も畑もやっているのですか?もう歳なんだからあんまり無理しないでください。手紙に挟んであった絵葉書は母さんが書いたやつですか。趣味ができたみたいで息子として嬉しい限りです。父さんは元気にしていますか?母さんに言われて少し考えたりもしているのですが、やっぱり僕から連絡することはできません。かと言って父さんからの連絡を待っているわけでもないのだけれど。お金のことは心配しなくていいです。僕が責任を持って返します。だからできれば父さんを責めないであげてください。母さんのためです。また疲れてしまうので。僕が全部うまくやるからお金のことはもう忘れてくれていいです。心配しないでください。また手紙書きます」


 僕がこの手紙をポストに入れて家に帰ると、宇宙人がちょうど僕んちのドアノブを回しているところだった。ぼろぼろの木造アパートのドアといえど僕はしっかりカギを閉めていたはずなのに、ドアノブはギシギシ音を立てて回り、ドアは開いた。僕はアパートの外階段をトントントンとあがって4段目の階段に片足を置いたまま目が離せなかった。その宇宙人も一切僕から視線を外さないもんだから、僕は少しひるみかけたが僕も僕で背負うものが多すぎるこの状況なので負けてられない。僕は視線を外さなかった(でも万が一のことがあるので睨みはせず、無表情にしておいた)。何分くらいその状態が続いただろう。とてつもなく長く感じられたのだが、ほかの住民も通行人も一切現れなかった。僕は心の中で人間を呪った。


 迂闊だった。その一瞬、僕は気がゆるんでしまい、一瞬だけど眉間にしわをよせて睨んでしまったのだ。やばい。殺される。と思った。でもその宇宙人は「あ」みたいな、なんとも聞いたことのない音を発した。まったく聞いたことのない音だったのでそれが本当に「あ」だったのかはわからないが、その「あ」みたいなのをその宇宙人は発したがなにも起こらなかった。ふぅと息をついた僕は少し優越感にひたっていた。


 顔を上げるとその宇宙人はいなくなっていた。すぐさまドアに駆け寄り開けようとしたら、なぜかカギが閉まっていた。財布からカギを出して差し込んだら、普通に開いた。あれ。


 その夜はいつになくぐっすり眠れた。次の日の朝、目覚めると少し畳がきれいになっている気がしたが気のせいだと思った。あくびをし、立ち上がり、カーテンを開けて日光を浴びた後、トイレにいった。用を足した後にふと、少し便座がきれいになっている気がしたが気のせいだと思った。顔を洗って戻ってくると机の上に見たこともないメタリックなものが浮いていた。1センチくらい浮いていた。それは少し丸みを帯びているがティッシュケースくらいの大きさで平べったかった。たまにうねうねしていた。僕はなぜかわからないがこれは食べ物だとすぐにわかったので、ちょうどお腹がすいていた僕は迷わず食べた。口当たりはホットケーキで卵焼きをサンドしたような味、後味がお好み焼きだった。そんなばかなと思い、手に出してみたら本当にお好み焼きだった。


 普通に出社して普通に帰宅した。普通に働いて普通にお金を返した。そして今日、僕は生まれたばかりの自分の子供を抱いている。僕は宇宙人に構っていられるほど暇ではなかった。

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