第8章 Part 4 分岐点

【500.7】


 アルマートは、アークを破壊するついでにソフィア結晶を手に入れていたはず。

 いや、でも本当にそうなのか?

 気付いたらソフィア結晶は無くなってた。

 ソフィア結晶を確保する前に、アークを破壊するなんてリスキーなことをするだろうか?


 目を閉じてはいけない。


 アルマートの行動を見極める……!


「立てる?」


 ヴェーナを殺したアルマートが私に右手を差し出す。


 その時、もう片方の手が後方……ソフィア結晶に向かって伸びた――気がした。




 ダメだ。

 迷っているヒマは無い。


 力を振り絞り、アイソレートを発動させる。

 球状の壁でソフィア結晶の片方を丸々覆い尽くした。

 同時に動かせるだけの楔を起動、アークに向けて一斉に射出する。




 ドドドド……!


 アークは穴だらけになり、煙を吐いている。

 今はこれが精一杯……!




「お前……何故私の狙いを知っている!?」


 殺意。


 殺される。逃げなくては。

 お願い! 耐えて!


 バシュッ……。




 折れ曲がった3人の身体と一緒に接続空間へテレポートした。

 ……空渉石を使わずに。


「うぷっ……おえぇぇえ!

 ……あ……ぁがああっ!!?」


 鼓膜の奥でブチブチと音がする。

 視界が赤く染まる。

 覚悟はしてたけど、今までの比じゃない。


 痛い。痛い痛い痛い痛いッ!!


 痛
















 …………。


 ここは……?


 ああ、そうだ。


 私、空渉石ないのにテレポート使ったんだっけ……。

 てことは、ここは接続空間……。


 周囲を見渡す。接続空間で間違いない。


 ただ、私の倒れていた周囲が血だらけだ。

 よく意識が戻ったな……。




 何よりもまずは、みんなを連れてジキリクさんの元へ。




 定まらない焦点のまま、身体を引きずり空渉石に触れる。


 テレポートで帝都ディエバへ。




 平民区の道端に突如、血だらけの私達が出現した。


「何だ!?

 オイ、あんた!! 大丈夫か!?」


「すみ……ません……私は……ハンター……です。

 ハンター……ギルドまで……」


 通行人に運んでもらう。


 よかった……。

 親切な人がいて。




 ギルドについた。

 ジキリクさんがいる……。


「一体何事です!? 早く治療室へ!!」




「ジキリクさん……一応、3人の生死を確かめてください……」


「全員、死亡しています」


「そうですよね……。

 今、何日の何時ですか……?」

「7月7日の正午ですが」

「そうか……丸1日経っちゃってるんだ……」


 カイ……。

 地獄って言うのは、このことね。


 覚悟を決めるわ。




 それから私はジキリクさんに事情を説明し、彼の治癒魔法で私の身体を治療してもらいながら3人の蘇生を行った。


 人間1人分、丸1日の時間遡行。

 私のソフィア・キャパシティを明らかにオーバーしている。


 時間が経てば経つほど反動は大きくなる。


 1人目を治し、血を吐く。

 咳が止まらない。

 その度に、血が飛び散る。

 最初に蘇生したのはアーサー。彼にも治癒を手伝って貰う。

 何度も吐きながら、ネクタルを飲み干す。


 体力とMPを回復させ、2人目を治し、血を吐く。

 あまりの痛みに一瞬意識が飛ぶ。

 ジャックが私を揺すっている。

 彼が泣いているところは初めて見た。

 意識を失ってはダメだ。

 それだけ時間が経過してしまう。


 また回復し、3人目を治し、血を吐く。

 最早痛みは意識の遠い所へと切り離されている。

 頭の中で壁をしきりに引っ掻くような変な音がする。

 怖い……。


 メリールルの蘇生が完了した頃には、治療室の床には大きな血の池ができていた。


 やっぱり、ヴェーナのようにはいかないか……。


 ジキリクさんとアーサーにその都度治療してもらっているのだが、それでも体中が焼けるように痛い。

 視界の焦点が合わない。


 メリールル、みんな。

 そんな顔しないで。

 覚悟の上だから。


 左腕の感覚がない。

 ピクリとも動かせない。




 途中から、支部の他のメンバーも戻っていたようだ。


 グレゴリオ・マイルズが3人を蘇生した後の私を診察する。


「結論から言うぞ。

 最大MPを超過する魔法なんて無茶は、今後絶対にするな。

 魂と肉体が崩壊するぞ。

 お前の左腕だが、魂との接続が失われている。

 もう動かんかも知れん」


 はい。

 ヤバいのは分かってます。

 そうならないように、気を付けます。


 体感時間でいうと、1時間。

 1時間までで身体の一部分なら、無理せずにイニシャライズで怪我を治せる。






 声を出すと気持ち悪くなるので、みんなが作戦会議するのをベッドの上で聞いていた。


「取り敢えず1日経ったけど、まだ何も起きていない。

 これは一応成功したってことでいいんだよね?」


 確かに、青い光が世界を包んだりはしていない。

 私達は無事だ。


「ああ。

 ドロシーに感謝する以外ねえな」

「これ以上ドロシーに負担はかけられないよね。

 アタシらが、もっとちゃんとしなきゃ」


「で、これからどうするよ?」

「そうだね……ソフィア結晶にかけたアイソレートを解除する方法って、あるのかな?」

「どうだろうな。

 アルマートがどうにかする方法を編み出さねえとも限らんな」


 私が消去しない限りは、かなり長い間は消えないはず。

 だけど、解除される可能性は当然ゼロではない。


「早めにアルマートをブッ潰さないと、ダメでしょ!?」

「あのなぁ、簡単に言うけどよ。

 俺ら3人、レオンヒルにボコボコにやられたばっかだろうがよ。

 アルマートだって相当強いはずだぜ」

「それを何とかすんのよ!」

「どうやって!?」

「あんたが考えなさいよ!

 アタシが作戦思いつくわけないじゃん!!」


 メリールルは人差し指でジャックの二の腕をグリグリと突っついている。

 ジャックは天井を仰いだ。


「2人とも落ち着いて。

 あまり騒ぐとドロシーの傷に響く」


 アーサーが2人を諫める。

 彼はずっと私に治癒魔法をかけ続けてくれている。


「もちろん強敵だとは思うけど、レオンヒル……というかヴェーナの強さは段違いだったと思うな。

 アルマートだって手出しができなかったから、僕達を利用した訳だし」

「まあ、それはそうかもな」


「僕はアルマートがソフィア結晶を使って何をしようとしているのか、それを知りたいんだ。

 もしかしたら、交渉で妥協点を見いだせるかも知れないでしょ?」


 それを聞いたメリールルが声を荒げて反対する。


「交渉?

 何甘っちょろいこと言ってんの!?

 ブッ殺すに決まってんでしょ。

 魔導師会の連中なんて、全員死ねば良いんだよ!」


「……メリールル……」

「ドロシー?」

「それを言うなら……私だって同じ……。

 記憶は無くしても……魂は……ナターシャのコピー……だから」

「そんな! それは……違うよ」

「メリールル……未来の為に……行動しよう……。

 お願い」

「……うん。分かった」




 私の体調が回復するには、それから2日を要した。

 その間、3人は情報収集や旅の準備を行っている。


「気付いたんだけどよ。

 俺のフローコントロールの能力って、もっと色々なことが出来る気がすんだよ」


 ジャックは自身の能力、フローコントロールを更に深化させた。


「エディ・キュリスが遺した創魂術ってあっただろ?

 アレはキュリスがソフィアに触れて、ソフィアを成形できるようになったから可能になった技だ。

 今の俺なら、キュリスと似たようなことが出来るんじゃねえかな?」


「同じことって……魂を創るつもりかい?」

「いや、そういう訳じゃねえんだが……。

 この前ヴェーナと戦ったとき、ウィルの流れを操ることが出来たんだ。

 ソフィアの流れだって操れる。

 例えばこうやって……」


 ジャックが空中に手をかざす。


「今だ。

 アーサー、何か魔法使ってみてくれ」

「ああ……」


 アーサーが炎属性魔法を発動させる。

 火の玉が部屋の中に浮いている。

「インジケーターを見ろ」

「あ……。

 MPが凄い速度で回復してる!」

「この部屋の中のソフィアをまとめてアーサーの身体の周囲に集めてる。

 どうだ? 回復速度が全然違えだろ?」

「これ、凄いことだよ!

 ソフィアとウィルの流れに干渉できるってことは……オーバーテクノロジーと言われてるアークと同じことができるってことになる!」

「あそこまでの出力は無理だろうけどな。

 でも色々応用できそうだぜ?

 メリールルの龍化時間を伸ばしたりとか、相手の魔法発動を邪魔したりとかよ」




 私の体調が回復し、左手以外が動かせるようになった頃、今後の活動方針を決めるための話し合いを行った。


 私達には知らないことがまだ多すぎる。

 アルマートが起こそうとしているワールドダイブとは、一体どんなことなのか?

 そしてそれを起こす動機は何か?

 「闘争の呪縛」とは何なのか?


 バルチェから教わった真実が彼女を悩ませたと書いてあった。

 アルマートが知った真実とは、一体何なのか。

 それを知りたい。


「アルマートは、どこでバルチェ・ロワールに出会ったのかな」


 みんなに聞いてみる。


「場所に関する記述は無かったよな」

「確か日記には、遺跡で作業していたって書いてあったよね」

「アーサー、この国に歴史学者が調査しそうな遺跡ってないかしら?」

「うーん……。

 沢山あるような、ないような……」


「アルマートの隠れ家ってさぁ……何で、あんな場所にあったのかな?」

 メリールルが呟いた。


「は? いきなり何言ってんだ?」

「だって、その日記書いてたのって、隠れ家でしょ?」


「……遺跡での作業の間、あの地下道の隠れ家に寝泊まりしてた……?

 だとしたら、隠れ家の近くに遺跡があった可能性が高いね……!」


「もう一度行ってみましょう、隠れ家に」

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