幕あい Part G 魔女を殺せ

【500.6】


「アデュア・ビヤルク、お前に神託を授けよう」




 声が響いた。

 だが、振り返ってみたが、声の主の姿はない。


 何だ?

 俺の名前を呼んだのは誰だ?


 仲間達は声を気にする様子すらない。


「アデュア・ビヤルク。

 この声はお前にしか聞こえない。

 お前が選ばれたからだ」


「さっきから誰だ?

 選ばれたって、何のことだ?」


 すると、自分の影がひとりでに歪み、答えた。


「お前は選ばれたのだ。神の代行者に」


「神の代行者?

 ……貴方は一体……?」


「私は神の使い、ノア。

 お前達の言葉で『天使』とでも表現しておこう」




 天使――。


 謎の声は、我々の信仰において最も大切な存在である「天使」を名乗った。




「本当か?

 天使様が、私に……話しかけていらっしゃるのか?」


「そうだ。


 お前は残された人間の中で、最も強固な意志を持っている。

 それ故に、神がお前を代行者とお認めになられたのだ」


 間違いない。


 天使様がおいでになられた。


 言い伝えは正しかったのだ。




 雷に打たれたような衝撃が俺の心を駆け巡る。

 俺は感動に打ち震えた。


「ああ、ああ……何と光栄な……!!


 天使様、私は何をすれば良いのですか?

 救済の時は、まだ遠いのでしょうか?」


「救済の時、天に帰る時は近い。

 お前達、取り残された人間の苦しみも、もうじき終わる」


「本当ですか……!

 遂に、遂に我々が先達の元へと行ける日が来るのですね」


「……だが、救済の障害となる存在がいる。

 そこでだ、アデュア・ビヤルクよ。

 お前に神託を授けよう。


 救済の障害、魔女を探し出し、殺せ。

 そうすれば、お前達の待ち望む救済の時がすぐにでも訪れよう。


 お前達の先祖が犯した罪が赦される日も近い」


「分かりました。

 魔女を殺せば良いのですね」


「そうだ。それこそが救いの鍵だ。

 アデュア・ビヤルクよ。

 命を散らすことは怖くない。

 神託に殉じたならば、道半ばで死のうともその魂は天へと召されるだろう。

 私がそれを保証しよう」


「はい。死は、怖くありません」


「行け。神の代行者、アデュア・ビヤルクよ。

 魔女を殺せ。


 その魔女の名は――」

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