第2話 おれが来て、みんな救われた

「ありがとうございますっ! 寿崎さん!」

「……は?」


 いきなり感謝されて、おれは戸惑った。みんなの目はキラキラしている。まずは扇風機のおっちゃんが話し始めた。


「寿崎さんが涼んだ扇風機は私が発明したものです。実験台にして申し訳ありませんでした」


 ああ。ハメられたんかい、おれ。


「しかし寿崎さんのおかげで、この異世界転移扇風機は大成功だと判明しました。ありがとうございます!」

「……どういたしまして」


 おっちゃん……そういうあんたは、一体どうやって異世界おれんとこに来たんだ。

 というツッコミを入れる間は与えられずにドスドスドス。

 はい、次の方。


「ありがとうございます! この世界に寿崎さんが来た途端、自分の足の怪我が完治しました! これからも相撲を続けられます!」


 お相撲さんって、この世界にもいるのかよ!


「実は、まだ四股名がなくて……。今、決めてくれませんか? できれば寿崎さんの名前から、一文字だけでも取っていただきたい……」

「じゃあ寿ことぶきやま

「はああっ……! 感無量ですっ!」


 軽い気持ちで名付けたのに、こんなにも喜ばれるとは……。お相撲さんはドスドスと満足して戻っていった。


「じゃ、次オレの番ッスね!」


 お次はパッと見ファンタジーっぽさ皆無のパリピ風あんちゃん。


「寿崎さんのおかげで転職できましたっ! 百パー無理ってバカにされていましたけど……オレ、遊び人から剣士になります! あざーっす!」


 見た目の割にRPG要素ハンパねぇ!

 

「おめでとう、頑張れ」


 これで遊び人時代の運の良さも引き継がれるならばナイス。

 その後も、お礼の言葉は続いた。


「新しい薬が秒で完売した」と薬屋。「魔力アップした」と魔法使い。「異種族の友だちができた」とモンスターたち……。一度に多くの「ありがとう」を聞いた。こんなこと初めてだ。


「これで全員、寿崎さんに礼を言ったな!」

「はいっ!」

「よし! 今度は、この村の救世主である寿崎さんを胴上げするぞ!」

「え」


 そして、おれは。


「わーっしょい! わーっしょい!」


 生まれて初めて、たくさんの人々(?)に胴上げされたのだった。


「……」


 色々ありすぎて、おれの心はそう簡単に落ち着かなかった。頭がゴチャゴチャだったけれど、これは分かった。

 おれも誰かの役に立つんだってこと。

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