瑠璃色の宝石〜記憶を無くした少女の契約と正体の謎〜

天野すす

一章 孤児院編

プロローグ

人には、一つや、二つ、秘密がある

”自分にはない”という人は、きっと気づいていないだけ


歳を追うごとに、増えるはずの、秘密

物心がついた時には、既に、幾つもの鎖に繋がれていた


知りたい?


別に……

首を振った


だけど、人は本能で知りたがる

きっかけという”歯車”が、鈍い音を立てて回り出す時、平穏な日常は、星霜せいそうとなって、送り出される



”自分”という物語を、変えるために






1 プロローグ


 とある国。


 母親と少女が唄っていた。

 少女のために作られた唄だった。


 誰もが、平和だ、と思うその光景を、皆は温かく見守っていた。だが、そんな人物だけではなかった。


 もう一度、最初から唄おう。2人は笑い合う。


 その時。


 雷鳴がとどろき、凄まじい音を立てて稲妻が落ちる。


 光で見えたのは、飛び散った、赤い花びら。




 そう見えた……




 恐怖とも言える光景と、生臭さに唖然としていると、兵士が何人もやって来て、わたしはその中でも一際、高価な服を着た、一人の男に抱えられる。



 でもわたしは。


 怖いのに、目が離せずにいた。ドクドクと血がたぎり、目の前が、真っ赤に染まった。




『許さない』




 誰が味方?

 そんなの分からない。気持ちだけが、走り出す。




「落ち着け!! アイリス!」


 そんな事を言っても、遅い。わたしは、決めたから。『許さない』と。


 気持ちのおもむくまま、魔力が弾けて大爆発は起こった。


 神に愛され、人々に愛される特別な力を持って生まれてくる存在。

 『アイリス』と言われる少女の怒りは、『神の怒り』と言われその後も歴史に刻まれる出来事となった。



 きれい……



 一面の焼け野原。それを見て、アイリスは、紅い目を細めていた。


 手は痺れ、冷たい。それなのに、ドロドロとした胃液が溶岩のように、あつく、苦く、口の中を支配する。


 名前を叫んだのは彼女の父親。彼は苦しそうな表情かおを浮かべると、娘の目を覆い、眠らせた後、記憶を封じる事にした。


 しかし、その数日後、アイリスは忽然とその姿を消す。国は慌てて彼女を探したが、結局、見つかることはなかった。


           ※





 女の人に、手を掴まれ国にやって来た。それが、一番古い記憶。わたしには、その前の記憶が、ぽっかり、と抜け落ちていた。


 どうしてなのか、は知らない。


 フードを被った、男の人の前に差し出され、わたしは、ジッとその人を見あげていた。高価な服を着ていたことが、記憶に残っている。


 怖かった、かもしれない。でももう、どうでも良くなっていた。


「いいのか?」


 男の人は、わたしを、あわれんだ目で見る。


「わたくしには不要な子、好きにしてください」


 それには、母親ではない人が、返事をした。男の人は、わたしの手を取り、紙に触れさせる。


「……!」


 急に熱をもった脇腹に、びっくりして、さする。


「大丈夫だ」


 その人の言った通り、熱はしだいに、消えて無くなっていった。



『契約魔術』



 これが、そう呼ばれる物だとは、この時は、まだ、知らなかった。





 そして月日はたち……少女は10歳になった。

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