おいものきせつ
外の空気は冷たく、吐く息が白く色付く。
煙草を吸っている先生みたいだと竜平ははしゃいでいたけれど、竜平ほど若くはない高槻の体には辛い寒さだ。
少しでも風があたらないよう、校舎の壁に身を寄せる。
先ほどまで熱を発していた焚火は、もう煙がくすぶるだけとなっていて、暖を取るのに役立たなくなってしまっていた。
「そろそろいいんじゃない?」
竜平は灰状になった落ち葉を木の棒でかき分けて、すすで黒くなってしまったアルミホイルの包みを探し出す。
えへへと笑いながら、ごろごろと二つの包みを自分達の方に転がした。
「うまく焼けてるかなあ」
自分の花壇の隅っこにこっそりと一株だけ植えていたサツマ芋を収穫した竜平は、用意周到に辺りの落ち葉をかき集め、高槻に焚火をしたいと頼みにきたのだ。
無邪気に目を輝かせる竜平につきあって、こうして寒空の下、風に吹かれながら焼き芋作りをしている。
といっても、元気に動いているのは竜平だけで、高槻はそれを見ているだけだったが。
「やけどするなよ」
「うん」
竜平は軍手をはめた手で熱い塊を取り上げ、銀紙を剥いていく。
「あち、あちち」
時折声を上げつつも、うれしそうに焼き芋と格闘する竜平を見ていると、なんだか自分までワクワクしてくる。
「わ、ほら見て、先生。いい感じ~」
半分に折られた芋はほかほかと湯気を立て、きれいな黄色と甘い匂いが食欲をそそる。
「はい、どうぞ」
今にもよだれをたらしそうな顔で、竜平は高槻にできたての焼き芋を差し出した。
「俺が先に食べていいの?」
「うん。俺はもう一個剥くから、冷めないうちに食べてて」
「ありがとう」
竜平が食べるまで待っていようと思ったが、期待に満ちた大きな目がじっと見つめているので、先に食べざるを得なくなる。
竜平の愛情が詰まった焼き立てのサツマ芋は、甘くてほくほくで、お世辞抜きに美味しかった。
胸の辺りがほんわりと暖かくなるような味だ。
「うん、うまいよ」
「ほんと?」
高槻の感想に安堵し、急いで自分の分を取り出した竜平は、高槻のより一回り大きいそれを持って、高槻の隣にしゃがむ。
ツンツンと白衣の裾を引っ張られ、立っていた高槻も竜平と同じように腰を落とした。
「寒いなら、火も消えたし、中で食べるか?」
「やだ。こうやって身を寄せあって食べるのがいいんじゃん」
竜平はそう言いながらもう一歩高槻に近付いた。
おしくらまんじゅうでもしているみたいに、触れた体がぐいと押される。
右腕だけが少し暖かいが、物足りない。
腕の中にぎゅっと竜平を抱き込んでしまったら、きっともっと暖かいだろう。
子供だからなのか、いつも竜平の体温は高槻よりも少し高くて、抱き締めるとその熱さが心地良いのだ。
「やっぱり、中に入らないか?」
「先生、寒いの苦手?」
「というか、まあ、どこかに隠れないと出来ないことが多い身でね」
「厄介な人だね」
竜平は、時折見せる大人びた顔で、困ったように笑った。
それは一瞬のうちに、いつもの子供っぽい無邪気な顔に戻る。
「でも、これ食べるまでだけ我慢してよ。お願い」
こんなふうに甘えられては、嫌だと言えるはずもない。
「俺ね、焚火で焼き芋したの初めてなんだ」
自分で作って自分で焼いた芋をおいしそうに頬張る竜平を見ていたら、それだけで少し暖かくなったような気がした。
「いいよ。ゆっくり味わおう」
寒いのはあまり好きではないけれど、竜平と一緒ならそれもいいかなと思う。
きっと、竜平がいれば、何だって。
嫌な事など吹き飛んでしまうのだろう。
大きな焼き芋をぺろりと平らげてしまった竜平に、高槻は残りの半分を差し出した。
「やった!先生、大好き」
予想に違わぬ反応に、高槻は密かに満足する。
<終>
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