介護の檻
大豆
新人介護士 松田悠平
プレドニンの行方①
『ないんですじゃないですよ!!』
特別養護老人ホームひだまりこと我が職場の医務室にヒステリックな声が響いた。
『管理があますぎるじゃないのよ!何回目なのよ一体!』
このヒステリックな声の持ち主は
通称トド。
浅黒い肌に重厚そうな皮膚。ドラミちゃんを思わせる体型。なるほど、トドである。
今回餌食になっているのは宇多川という44歳の男性ナースである。
トドが今頬肉を震わせ興奮しているのは、ここひだまりで今月二度目の内服薬の紛失が発覚したからだ。
宇多川にしてみれば当事者でも管理職でもない自分が、たまたま居合わせたナースと言うだけでここまで叱責されるのは納得いかないだろう。
入社一年目の介護士松田悠平は、医務室の隣のワーカー室と言う病院で言うところのナースステーションの用な場所でトドの怒声を聞いていた。
なにも盗み聞いているわけではなく、ここで日誌の記入をしているのである。
そこへワーカー室に先輩介護士の永田が入ってくる。
永田はユニットリーダーでもある。
『今日トド来るって聞いてた?』
永田が松田に訊ねる。小声だ。
『いや、抜き打ちらしいっすよ。』
『ふーん。ちなみにこれなに怒鳴ってんの?』
永田はにやけている。トドの怒声は傍観者からすればある意味名物なのである。
とは言っても宇多川も、年嵩も立場も上とは言え女性にここまでやり込められるのは面白くないだろう。
「そうゆう問題じゃないでしょ!」
壁越しでも怒声は鮮明に聞こえ表情までが壁をすり抜けて見えるようだ。
『なんかまた薬がなくなったらしくて…。』
『あーらま。どうせ角野か佐野さんだろ?』
『…わかんないっすけど…。』
松田は本来この手の話が大好きである。
その松田がこうも乗り気じゃないのには訳がある。
それは何を隠そう松田こそが隣で起きている一件の陰の当事者であるからだ。
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