みにくいまもののペットにされまして

きゅうご

第1話 みにくいまもの

 地球の中心部、あるいは地底。

 地底に何があるのか?

 マグマとかマントルとか岩の塊のようなものとかがぎゅっと詰まっているのはご存知だろう。

 その狭苦しくも広大な街の中で、ジゼームは彷徨いものの販売を行なっている。

 販売といっても店は構えていない。屋台形式で売りあるく。

 だから今日の収穫はちと面倒だった。彼は芋虫に似た8本の脚をうじゅうじゅ絡ませながら象に似た顔を斜めに傾げた。彼の体はほんの130センチほどで力仕事には向かない。なのに今日のに落ちていた収穫の一つは彼にとってやたらデカかった。どうにか大八車まで運んだが全長で150センチほどあるだろうか? 眠っているが起きたら暴れるだろうし、さて困った、と手元の携帯電話で知り合いにメールをしてみた。


 ひずみの近くの酒屋で待ってるよ、面白いもの有。


 数十分後、酒屋の外のボロい椅子で亭主が二十日ドラゴンの尻尾入りと言い張る安酒をちびちび飲んでいたジゼームのもとに大きな大きなオウムのようなものが羽音を立てて降り立った。酒屋の店主が赤い触覚をぴくりと跳ね上げ呻く。

「そんな客お断りだよ」

 ジゼームがそれを細い手で制する。

「よおよお、元気か、ィユグー」

 巨鳥が赤を基調としたカラフルで大きな羽をたたむとそれは長い丈のガウンになった。もっともガウンはその主人には寸足らずで足首が丸見えだった。そのガウンの赤いフードを外せば長身の彼女の緑の目が左に二つ、右に一つの顔が見えたはずだ。耳まで裂けた赤い唇や鼻のない(嗅覚を感じる為の穴は小さくある)面相も。ィユグーはみにくいまものだった。

「なにがあるというの」

 メールの内容に興味があるようで彼女はジゼームの荷物をふんふんと嗅いだ。

「いつものガラクタばかりじゃないのか?

 地上のガキが池に投げた靴とかゲーム機なんかは見飽きた。

 大地の上を飛んでるドラゴンの放射線に晒された鱗なら先週買ったよ」

「いやあさ

 あんたペットが飼いたいって聞いたからさ」

 と彼は大八車を顎で示した。

「……ペット?」

「いらなきゃ捨ててくる。

 俺が運ぶにゃでけえんだ。」

「きれい?」

「ああたぶんな」

 ィユグーは指輪をたくさんつけた骨ばった手を擦り合わていそいそと車に歩み寄り、歓声をあげた。

「きれい、買う、買うよジゼームありがとう」

 ジゼームは肩をすくめた。

 ィユグーは手枷と足枷と丁寧に首輪までしてあるそれを覗き込み首をひねった。

「これあんたがやったのかい」

「首輪?

 ああそのまんま落ちてたんだ」

 酒屋に酒代を払って、ジゼームも覗き込む。

「多分リンチにあって池にでも放り込まれたんだろ」

「地上は怖いね」

「まったくだ」

「いくら?

 運びにくいからチヂミ薬も欲しい」

 そうさなあ、とジゼームは銅貨一枚でチヂミ薬をつけてくれた。


 こうしてひずみに入り込んだヒトの子供はィユグーに買われた。

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