第440話 後悔と罪悪感






「本当に…大丈夫じゃないの?」


少しだけ、落ち着いた私は涙を拭いながら振り絞った声で陽菜に尋ねる。約束したもん。大丈夫じゃなかったら、私に言う。って約束した。定期演奏会、一緒に頑張って同じ舞台に立つって約束した。来年のコンクールも、一緒に出る。って約束した。それに……これから先、ずっと一緒にいるって約束したもん。大丈夫…なんだよね。本当は、大丈夫なんだよね。


「えへへ。本当にちょっとだけ、異常があって……今はまだ、ちょっとだけ息苦しくなったり、食欲なかったり、すぐに疲れちゃったりするくらいなんですけど……お医者さんの予想よりもちょっとだけ、早いみたいで…たぶん、来年のコンクールは無理そうです。黙っててごめんなさい。約束…したから。何て言えばいいかわからなくて……本当にごめんなさい……」


何度も何度も、ごめんなさい。と言って、また泣きながら私に謝る陽菜を私は抱きしめる。


「辛かったよね」


そう、声をかけてあげることで精一杯だった。私なんかよりもずっとずっと辛い思いをしていた陽菜に、私はなんて声を掛けた?問い詰めるような聞き方をしたことを私は激しく後悔する。なんで、陽菜の苦しみを理解して、優しく声を掛けてあげられなかったのだろう…と……


「ごめんね。気づいてあげられなくて……辛かったよね。陽菜、約束、覚えててくれてありがとう。陽菜が覚えててくれて嬉しかったよ。もしさ、来年のコンクール出られなかったとしてもだよ。私は陽菜の病気を治すことを最優先にして欲しい。約束したよね。これからもずっと一緒にいる。って…」

「はい………」

「そっちの約束は破ったら私、許さないからね。それに、まだ、確定じゃないんだよね?無理しないように生活して、健康的なごはん食べて、少しでも争ってみようよ。私も来年、陽菜とコンクールに出たいから、応援するよ」


私がそうやって陽菜に言うと陽菜は泣きながら私に抱きついて、ありがとうございます。とごめんなさい。を交互に繰り返す。私は陽菜を抱きしめ返して優しく頭を撫でる。


私のパジャマが陽菜の涙や鼻水で洗濯必須の状況になるまで陽菜は泣き続けて、ひたすら泣いた後は泣き疲れたと言うようにすぐに寝てしまう。そんなかわいい陽菜を寝かしつけた後、陽菜にそっと布団をかけてあげて、私はパジャマを脱いでジャージに着替えて、今日の洗濯物と一緒にパジャマを洗濯機にぶち込んで洗濯開始、そのあと、陽菜を起こさないようにそっとアパートの部屋を出る。


アパートの部屋を出てから、アパートの入り口に歩き、アパートのすぐ側にある電柱に私は頭を打ちつける。許せなかったから。自分を許すことができない。私が…陽菜を苦しめちゃダメじゃん。私が、陽菜を支えてあげないといけないのに……自分が許せなくて、私は何度も頭や拳を泣きながら電柱に打ちつける。ただ、私がどれだけ私自身を痛みつけても、私の陽菜への罪悪感は消えてくれない。たぶん、何をしても私は私を許せなかった。自分でも、わかっていた。こんなことをしても意味はない。って、でも、この時の自分はどうかしていたと思う。ただ、痛みが欲しかった。痛みでこの罪悪感を掻き消そうとしていた。どれだけいたくても、この罪悪感は消えてくれないのに…


後から考えれば完全に無駄な行為を私はしばらく続けた。





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