第409話 憧れ






「早く…出てってよ…」


泣きそうな表情で、目の前のかわいらしい女の子はまゆに言う。かわいらしい女の子の背後ですごく、心配そうに女の子を見つめている男の子は、まゆにごめんなさい。と言うような表情を見せてくれる。そんな表情しなくていいのに…春香ちゃんからりょうちゃんを奪おうって決めた時から非難されるのは覚悟してたから。3人で幸せになって、4人で幸せになってからも、非難される覚悟はあった。


だって、普通におかしいもんね。今のまゆたちの関係…どっかの異世界転生ものの物語でもない現実で、こんなめちゃくちゃな恋愛をしていたら…普通、こうやって非難されるよ……


「嫌だ」


即答してやった。まゆたちはおかしいよ。非難されても仕方ないよ。でもね。そんなことどうだっていい。りょうちゃんも春香ちゃんもゆいちゃんもまゆを受け入れてくれて、まゆもみんなを受け入れて、みんなで納得してみんなで幸せでいる。それが、一番幸せだ。って、気づいたからもう、譲らない。周りの言葉なんて気にしない。みんなが幸せ。って思えるからそれでいい。一度、離れて思ったもん。やっぱり、4人でいる時が幸せで、4人でこれからも一緒にいたい。って。


「出てってよ。邪魔なの!春香ちゃんの幸せのためにあなたたちは邪魔なの、春香ちゃんからお兄ちゃんを奪わないでよ。春香ちゃんの居場所を奪わないでよ。春香ちゃんの幸せを奪わないでよ。お願い…だから…出てってよ……」

「春ちゃん、落ち着いて…」


泣きながら叫ぶ春ちゃんをりょうたくんが止めようとするが、春ちゃんは止まろうとしない。


「あなたたちが出てってくれないと、春香ちゃん一人暮らしさせる。って…お兄ちゃんとも、あまり、関わらせないようにさせるって…それでもいいの?春香ちゃんをどれだけ不幸にさせれば気が済む?」

「春香ちゃんは不幸なんかじゃないよ」

「嘘!絶対2人の時の方が幸せだった」

「じゃあ、なんで春香ちゃんはまゆとゆいちゃんに文句を言わないの?」

「春香ちゃんは優しいから…」

「じゃあ、なんで、春香ちゃんはこの前、春ちゃんに酷いこと言ったの?春香ちゃんが春ちゃんになんて言ったか、詳しくは知らないけど、相当酷いこと言った。って春香ちゃん落ち込んでたよ。なんで、春香ちゃんは春ちゃんに酷いこと言ったと思う?」


まゆが問うと、春ちゃんは答えに詰まった。当然だろう。春ちゃんは答えを知っているのだから……


「もう、わかってるでしょう?春香ちゃんが本当にこのままでいることを望んでるって…このままでいたいと思ってくれてるって…今が幸せだって思ってくれてるって…」


春ちゃんはバカじゃない。だから、気づいているはずだし、わかっているはずだ。ただ、それを受け入れたくないのだろう。長年、お兄ちゃんと幸せそうにしている春香ちゃんに憧れてきた子が春ちゃんだから…


「春ちゃん、ごめんね。春ちゃんのわがままにまゆとゆいちゃんを…りょうちゃんと春香ちゃんを巻き込まないで」


言い過ぎかな。と思った。でも、これくらい、キツく言わないと…いや、これくらいキツく言っても、長年の理想の憧れは、この子の中から消えてくれない気がする。






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