第357話 思い込み






「は、陽菜…お、落ち着いて……」


陽菜を止めようとしたが無駄だった。陽菜は聞く耳を持たず、鬼の形相でりっちゃんさんの元へ歩いて行く。


「え、は、陽菜?」


目の前で、涙目の陽菜にめっちゃ睨まれてりっちゃんさんは怯えた表情をする。うん。怖いよね……


「りっちゃんさん…陽菜のこと捨ててすぐに男の人とデートですか。そうですか。さすがりっちゃんさん、モテモテですね。もう、知らないです。どうぞお好きに幸せになってください。陽菜はりょうちゃんにでも引き取ってもらってりょうちゃんに幸せにしてもらうのでどうぞお気になさらず忘れてください。今までお世話になりました。りょうちゃん、行こ…」


りっちゃんさんに見せつけるように僕の腕をギュッと掴んで陽菜は僕を強引に引っ張って食堂から連れ出す。



「……………」


先程まで、陽菜と話をしていたピアノ練習室に連れ戻された後、号泣して顔を真っ赤にしている陽菜を慰めるが、陽菜は泣きすぎてまともに話せる状態ではなくなっていた。


「陽菜、大丈夫?」

「死ぬ……」


やっと、返事をしてくれたと思ったら、開口一番に死ぬ宣言をされてしまった。


「そんなことしたら、りっちゃんさんが悲しむよ」

「悲しまないもん。もう、りっちゃんさんにとって…陽菜は……どうでもいい子……だもん……」


号泣しながら振り絞った声で陽菜は僕に言うが…陽菜の思い込みが激しい気がする。ただ、男の人と一緒にご飯食べてただけだし…決めつけすぎじゃない?


そう考えていると、りっちゃんさんから連絡が来た。りっちゃんさんの方から春香とまゆに何があったかを伝えてくれたらしい。そして、陽菜の様子を聞かれたので、答えるとめちゃくちゃ心配していて、今から行っていい?と言われたが、少しだけ、陽菜に落ち着いて考えて自分の思い込みだと理解させてからの方がいいと考えたので、りっちゃんさんに少しだけ待つようにお願いする。


「確認なんですけど、先程一緒にいた男性はどなたですか?」

「あ、そうか。りょうちゃんも陽菜も知らないのか…元吹奏楽部のホルンだよ。元々、今日一緒にお昼食べる約束してて、アンサンブルでよ。って誘う予定だったの。いきなり断るのも申し訳なかったから、お昼一緒に食べようとしてたらりょうちゃんと陽菜がいて、それどころじゃなくなったけど…」

「そうなんですね。安心しました」

「うん。私が、陽菜以外の人に振り向くことはもうないと思うから…隠し事をされてたことが許せなかったのと、陽菜が倒れるまで気づかなかった自分が嫌になって陽菜に酷いこと言っちゃったからちゃんと謝らないと…」


そんなやり取りをりっちゃんさんとして、本当に安心した。やっぱり、りっちゃんさんは陽菜のことが大好きで、陽菜はりっちゃんさんのことが大好きみたいだ。


「陽菜、これ見て」


りっちゃんさんと僕のやり取りを見て、陽菜はめちゃくちゃ泣き出した。たぶん、嬉しくて泣いてるんだと思う。安心したから、泣いてるんだと思う。


「ほら、泣き止んで、泣き止まないとりっちゃんさんに会わせないからね。泣き止んで、りっちゃんさんに会って、ちゃんと謝ってもらって、隠し事してたことちゃんと謝って、仲直りしなよ」


僕がそう言うと陽菜はめちゃくちゃ泣きながら首を縦に振る。やれやれ、手がかかる幼馴染みだ……






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