第356話 嘘つき
「陽菜、おはよう……どうしたの?」
陽菜に声をかけて、僕の方を振り向いた陽菜は目に涙を浮かべていた。教室で泣くって…中々やばいよね……
「りょうちゃん…」
泣きながら抱きつかれた。やばい。いろいろやばい。周りの視線とか周りの視線とか周りの視線とかいろいろやばいよこれ…あいつ、何人目だよ…とかいろいろやばそうな声聞こえてるし……誤解を招くからやめて……
「陽菜、と、とりあえずさ、講義終わったら話そう。何かあったんだよね?」
「りっちゃんさんに怒られた…もう知らない。って言われた……」
めっちゃ泣きながら割と大きめの声で言う陽菜……なるほど、それは大変だ。僕も春香とまゆとゆいちゃんにもう知らない。とか言われたら今の陽菜みたいになる気がする。
なんとか陽菜を宥めて1限の講義を受けて空き時間の2限の時間に陽菜を連れてピアノ練習室に入る。
「で、何があったの?」
「………何があってもりょうちゃんは怒らない?」
陽菜の言葉とりっちゃんさんが怒った理由を推測するだけで、陽菜に何があったかは大体想像できる。
「悪化…したの?」
恐る恐る尋ねる。今、目の前にいる幼馴染みが…いなくなってしまうのではないか…とか、本気で思ってしまう。
「………してない………よ………」
「本当に?」
「うん。悪化は……してない………」
でも、何か…あったんだよね。そう、言ってしまいたい。何があったのか、幼馴染みとしてすごく心配だから……でも、陽菜の表情を見たら…そんなこと聞けないよ。
「陽菜…りっちゃんさんに嘘ついてたの……」
「嘘?」
「うん……陽菜、一回だけだけど…本当は入院しないといけないのに、また、入院してりっちゃんさんと一緒にいられる時間が少なくなるのが嫌で…無理矢理、入院しないでりっちゃんさんの側にいたの……それで、りっちゃんさんの部屋で少し体調崩しちゃって……りっちゃんさんが陽菜の両親に連絡したら……りっちゃんさんに大丈夫。って嘘ついてたことがバレて……また、入院して、数日間会えてなくて…昨日、退院して……でも、いつも陽菜を迎えに来てくれるのに……昨日は……来てくれなくて……今日……朝、会った時に……りっちゃんさんに……泣きながら……もう、私の側にはいられない……って……言われて……」
泣きながら、ゆっくり、何があったのかを話してくれる陽菜…陽菜の気持ちはわかるよ。大好きな人と…1秒でも一緒にいたい。と思う気持ちはすごくわかる。だから、陽菜を責めることはできない。
とはいえ、りっちゃんさんの気持ちも、すごくわかる。だって、自分と一緒にいたい。と言う理由で、自分にとって一番大切な人が、無理をしてしまうのなら…もう、一緒にいない方が、大切な人のためになるのではないか…そう、思ってしまうだろう。
「陽菜、とりあえず落ち着こう。りっちゃんさんはさ、陽菜には怒ってないと思うよ。たぶん、陽菜が無理をしていることに気づけなかった自分に怒ってると思う。そして、これ以上、陽菜に無理して欲しくないから…今は自分を一番大切にして。って意味を込めて、もう知らない。って、陽菜の側から離れたんじゃないかな?陽菜のためを考えてくれてのことだと思うよ。そうじゃなかったらりっちゃんさんは陽菜の前で泣いたりしないよ」
そう言って陽菜を慰めてあげると、陽菜は涙目で僕の顔を見て、本当に?と尋ねる。僕は、迷いなくうん。と答えた。陽菜の気持ちも、りっちゃんさんの気持ちも、痛いほど理解できるから、迷うことなく…うん。と答えられた。
「ちゃんと、謝りなよ。もう、無理はしない。って約束しなよ。自分をもっと大切にする。って約束して、その上で、これからも陽菜の側にいてください。って、りっちゃんさんに言ってあげなよ。そうしたら、りっちゃんさんと仲直りできると思うよ」
そうやって、陽菜に言ってあげると、陽菜は涙を拭って、りっちゃんさんに連絡を入れる。たぶん、講義の最中なのだろう。お昼とかに頑張って捕まえて話してみる。と言う陽菜を応援して、陽菜と別れた。
陽菜と別れた後は食堂に向かう。春香とまゆとゆいちゃんとお昼ごはんを一緒に食べる約束をしていたから、講義の最中みんなの分も席取りをしていた。
2限の講義が終わるのを待ちながら、スマホをいじっていると、りっちゃんさんの姿が目に入った。陽菜にりっちゃんさん見たよ。って連絡しようと思ったが、すぐにやめた。
今、陽菜を呼んだら、すごく、大変なことになりそうだから……
「りょうちゃん、りっちゃんさん見かけたら教えて…ね……」
りっちゃんさんの隣にいる見知らぬ男性を見ながら頭を抱えていると僕を見つけた陽菜が話しかけてきて、僕の目線の先にいるりっちゃんさんと男性を目で捉えて、一瞬で陽菜の表情が怖くなった。
なんか、やばい気がする……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます