第294話 大好きなきみへ。






アパートに到着すると、りょうくんは私の手を引っ張って私の部屋に向かう。


「とりあえず、シャワー浴びて着替えなよ。本当に風邪ひくからさ…話はそのあと…」


話すことなんてないのに…りょうくんから手を離すと、私は再び負の感情でいっぱいになってしまう。なんで…来たの?また、私、勘違いしちゃうよ……いろいろ考えてぐちゃぐちゃな心でシャワーを浴びる。いっそのこと、私のこの感情もシャワーで洗い流すことができたら楽なのに…


戻りたくないなぁ。と思いながらタオルで体を拭く。りょうくんに会いたい感情と会いたくない感情が、私の中で激しくぶつかっていた。


「りょうくんは…?」

「ゆい、さすがに怒るよ…」


さきが呆れた表情で、私に言う。りょうくんがいないってことはもう帰っちゃったのかな…


「ゆい、たぶん、今、私が何を言ってもまともに聞く耳持たないだろうから手短に言うけど…私、ゆいのこと心配してるんだからね。勝手に心配しないで。って言われたらそれまでだけど、私、ゆいの親友として本当にゆいのこと心配してるんだから…だから、本当に潰れそうなら限界って言ってよ。私、ゆいのためなら出来ることなんでもするからさ…」

「うん。ありがとう…」


嬉しかった。さきみたいな子が私の側にいてくれるのはすごく心強くてすごく嬉しい。


「じゃあ、りょうちゃんが外で待ってるから…行こ…」


さきは私の手を引っ張って外に連れ出す。私は部屋の鍵を閉めてアパートの外に出る。


「りょうちゃん、ゆい連れてきたよ」

「さきちゃん。ありがとう」

「いえいえ、じゃあ、私はもう帰るね。りょうちゃん、ゆいのこと…よろしくね」

「うん。ありがとう」


さきを見送った後、りょうくんは私を見つめた。


「行こ」


りょうくんは笑顔で私と手を繋いで私を引っ張って歩き始める。そして、近くに停まっていたまゆ先輩の車に私を乗せて、春香先輩とまゆ先輩と4人でりょうくんたちのアパートに向かった。


「りょうちゃん、まゆと春香ちゃん、少しお買い物して帰るからそれまでに話つけておくんだよ」

「うん。ありがとう。まゆ。春香もありがとう」


春香先輩とまゆ先輩はアパートに私とりょうくんだけを残してどこかに行ってしまう。


「ゆいちゃん、急に連れ出してごめんね」

「本当だよ…ばか……いきなりでびっくりするし、やめてよ。それに、もう、関わらない。って決めたじゃん…」


そうやって、りょうくんを突き放そうと口では言っていたが、気づいたら私はりょうくんを抱きしめていた。りょうくんは私を優しく抱きしめ返してくれて、私はすごく幸せになり、温かさで包み込まれた。


「ゆいちゃん、僕さ、ゆいちゃんのこといっぱい傷つけたよね…」

「そんなことないよ。私が勝手に傷ついてただけ…りょうくんは何も悪くない」

「ゆいちゃんはさ、こんな僕のこと、まだ好きでいてくれる?」

「当たり前じゃん…好きだよ。好き。大好き。りょうくんのためならなんでもできる。りょうくんのためなら死ねる。って断言できるくらい、私はりょうくんのことが大好きだよ……」

「そっか…ありがとう。こんな僕を好きでいてくれて…僕さ、昨日いろいろ考えたんだ。いっぱいいっぱい悩んでいろいろ考えた。どうすればゆいちゃんは傷つかなかった。とか、どうすればゆいちゃんと仲直りできるかな。とか、どうして、まだ、ゆいちゃんと一緒にいることを諦められないんだろうとか…いろいろ考えていっぱい悩んだ。ごめんね。上手く、言葉に出来るか分からないけど、聞いてもらっていいかな?」

「うん。いくらでも聞くよ…」


りょうくんが…大好きなきみが望むなら…それくらい。お安い御用だ。






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