第293話 きみは私を1人にさせてくれない。
さきが来てくれた。たぶん、りょうくんが私を心配してさきに頼んだのだろう……りょうくんが私を心配してくれて、さきが来てくれたこと。嬉しいよ…すごく嬉しい……私なんかを心配してくれる人が2人もいるのだから……
私は、さきの前でいっぱい泣いた。泣いて泣いて、いっぱい話を聞いてもらった。さきは私の話をただ聞き続けてくれた。私とりょうくん、どちらのことも口に出さずただ、相槌を打って話を聞くだけだった。それが、私には本当にありがたい。
でも、私は少し1人になりたかった。さきには心配かけてしまうけど、少しだけ1人になりたい。だから、夜中にさきが寝てから私は、1人でこっそり部屋を出て外を歩く。
「どうしてここなんだろう…」
気づいたら私の足は以前、りょうくんと話をした公園に向かっていた。そして、足は自然とブランコに向かい、私はブランコに座る。嫌だ。早く、この場所から立ち去りたい。また、愛おしく思ってしまう。また、きみのことを想ってしまった。
だが、動こうとしても、私の足は重石がついているように重く、動かそうとしても動かない。
動けずにただただブランコに座っていると暗かった周囲は自然と明るくなってきた。明るくなってきた。と言っても雨雲に隠れて、太陽の日は当たらない。いつ雨が降り出してもおかしくないのに、私の足は動こうとしない。
私がブランコから動けずにいると、ぽつぽつと雨が降り始める。この雨は私にとって心地よく、都合がよかった。私の頭を冷やしてくれて、先程から流れでる涙を誤魔化すことができるから…
スマホが震える。きっと、さきからの着信だろう。今は、電話に出る気力すらない。ごめんだけど…今はこうして1人でいたい。ぽつぽつと降り始めてきた雨は少しずつ強くなっていき、さきからの着信でスマホが頻繁に震えるようになってから30分くらい経つ頃にはかなり強い雨になっていた。
私の髪も体も服もずぶ濡れだが、帰ろう。とは思えない。こうして、1人で黙って雨に打たれていたかった。
「だーれだ」
背後から突然、私の視界が塞がれた。聞き間違えるわけのない声を聞いて、私は幸せと辛さをどうじに感じてしまう。
「風邪ひくよ…ほら、こっち来て…」
そう言って、私の顔から手を離して、私の手を取り歩き出すきみを見て、私は涙腺が崩壊した。と思うくらい泣いてしまう。
「どうして…ここに?」
「直感。ゆいちゃんならここにいるだろうな。って…」
「違う。なんで来たの?やめてよ。私を苦しめたいの?」
また、強く言ってしまう。だって、これくらい言わないと…いや、これだけきつく言ってもきみは私の手を離さないだろうから……
「心配だからだよ。来るな。とか、苦しめるな。とか言うなら、まず、周りに心配かけるな」
珍しく強い口調でりょうくんは私に言う。そして、有無を言わさずに私をまゆ先輩の車に連れ込む。
「ゆいちゃん、ずぶ濡れじゃん…りょうちゃんも、なんで傘持たないで飛び出すかなぁ?ほら、タオル…風邪ひかないようにちゃんと拭きなよ」
車に乗ると助手席にいた春香先輩が私とりょうくんにタオルを渡す。
「で、ゆいちゃんのアパート向かえばいいの?」
「うん。さきちゃんも心配してるだろうからまず、ゆいちゃんのアパートでお願い」
「了解」
まゆ先輩はそう言って車の運転を始める。すごく、居心地が悪い。今の私にとって…この空間はすごく居心地が悪い。
「ほら、早く拭かないと本当に風邪ひくよ…」
りょうくんは優しく私にそう言って私が春香先輩から受け取ったタオルを取り上げて私の髪をタオルで拭いたりしてくれる。
春香先輩、まゆ先輩、ごめんなさい。そう、心の中で必死に謝罪しながら、私はりょうくんを思いっきり抱きしめる。だって、嬉しいんだもん。幸せ、なんだもん。こうしていたら…辛さなんて吹き飛んでしまうんだもん……
春香先輩とまゆ先輩は黙認して、りょうくんは私の頭を撫でて私を受け止めてくれる。今、この時だけは、すごく、幸せを感じることができた。
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