第273話 側にいること。
「お風呂出たらお布団敷いてくれてるって最高だよね…」
夜ご飯を食べ終えた後、もう一度温泉に入って部屋に戻ると、部屋の真ん中に置かれていたテーブルが片付けられていて、部屋の真ん中に布団が3枚並べて敷かれていた。
「りょうちゃん真ん中ね。まゆと春香ちゃんはりょうちゃん挟んで寝るから」
「うん。わかった。春香もそれでいいの?」
「うん!」
春香とまゆの了承を得て、さっそく布団で横になると春香とまゆも僕の隣の布団でそれぞれ横になってごろごろとこちらにやってきて僕の腕を抱きしめる。いつものことで慣れっこなのだが…
「春香、まゆ、せっかくお布団3枚もあるんだからさ、こんなにくっつかなくてもよくない?」
せっかくお布団を敷いてもらったのに僕が使っている1枚しか使わないのはもったいない気がする。
「まゆ、りょうちゃんと一緒じゃないと寂しいなぁ…」
「私も寂しいよ……」
まゆと春香にそう言われて腕をギュッと抱きしめられたら抵抗できるわけない。それ以上は何も言わずに、いつものように寝ることをあっさりと受け入れる。
「まゆちゃん、寝ちゃったね…」
「そうだね。ずっと運転してくれてたし、長い間、慣れない場所で寝泊まりさせちゃったり、いろいろ精神的に疲れる状況にさせちゃったから疲れが溜まってたのかな…春香、少しだけ腕放してもらっていいかな?」
「うん……」
春香が抱きしめていた僕の腕を放すと、僕はまゆにその手を伸ばして布団をまゆの肩までかけてあげる。そして、まゆの頭をゆっくりと撫でて、まゆの耳元でお疲れ様。ゆっくり休んでね。と小さな声で囁く。
「春香、ごめんね」
「大丈夫だよ。ありがとう。まゆちゃんを労ってくれて」
春香は僕にそう言いながら先程のように僕の腕をギュッと抱きしめる。
「今回の帰省でまゆちゃんに迷惑かけちゃって申し訳ないな…運転とかも任せきりでまゆちゃんにばかり負担かけちゃって……」
「春香、まゆはたぶん気にしてないと思うよ…春香も、今回の帰省で疲れてるでしょう?今日はゆっくり休みなよ」
「うん。ありがとう。でも、温泉入って美味しいご飯食べて、りょうちゃんに肩揉んでもらったりしたら元気になっちゃった。だから、もう少しお話しよう」
「うん。いいよ。春香が寝るまでいくらでも付き合うよ」
「ありがとう」
春香はそう言ってギュッと僕を抱きしめる。春香の柔らかい感触を感じて少しだけドキドキしながら春香との会話が始まる。
「ちょっと暗い話になるけどいい?」
「いいよ」
暗い話ってなんだろう。春香から暗い話をされることはかなり珍しいから気になる。
「りょうちゃんはさ、私かまゆちゃんがどうしても頑張りたいことがあるって言ってりょうちゃんからしばらく離れたいって言ったらどうする?」
「応援するよ。いつか、戻って来てくれるまで、寂しいけど、大好きな人を応援する」
「そっか…」
「春香、いなくなるとか言わないよね?」
春香の話の切り出し方から春香が僕の側から居なくなってしまうのではないかと焦りを感じる。
「あ、それはないから安心して。私はこれからもずっとりょうちゃんの側にいるよ」
「そっか…安心したよ。春香がいなくなったら寂しいからさ…」
「嬉しいこと言ってくれるなぁ…実はね。りっちゃんから相談受けてたんだ。陽菜ちゃん、入院してたみたい」
「え!?」
驚きのあまり、結構大きな声を出してしまう。幸い、まゆを起こすことはなかったので一安心だ。
「いろいろ疲れが溜まって入院したんだって、今はもう退院したんだけど、りっちゃん、陽菜ちゃんのこと、すごく心配してて…どうしてあげたらいいのか相談されてたの」
「そうなんだ…」
陽菜は、諦めていた。だから、きっと、りっちゃんさんは陽菜とどう接すればいいか悩んでいたのだろう。りっちゃんさんは、陽菜のこと、本気で好きになっている。だから、陽菜に生きてもらいたい。でも、陽菜はそれを望まずに、残された時間をりっちゃんさんと過ごしたいと考えている。だから、きっと、悩んでいるのだろう。
「春香、大丈夫?」
「え、何が?」
「結構重い相談されてるから負荷になってないかなって…」
「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。陽菜ちゃんね。来年、入院するって…りっちゃんのために頑張るって決めたみたい」
「そうなんだ。よかった…」
「りっちゃんも陽菜ちゃんもさ、お互い大好きなのに会うの難しくなるからさ、私たちも幼馴染みとして連絡とかちゃんとしてあげてさ、りっちゃんも寂しくならないように支えてあげたいね」
「そうだね」
安心した。陽菜のこと、ずっと心配していたから…でも、たしかに好きな人と会えないのは辛いだろうな……僕も、春香とまゆとしばらく会えないと言われたら辛い。春香とまゆ、大好きな2人とずっと一緒にいられることは本当に幸せなことなんだな。と思いながら、僕はゆっくり眠るまゆと、春香の顔を交互に見る。春香もまゆも、僕の側にいるよ。と言ってくれるように僕を抱きしめてくれていることが、幸せだった。
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