第253話 帰省
「うぅ…緊張する……」
「あの時の僕の気持ちわかった?」
初めてまゆの家にお邪魔した時、僕も今のまゆみたいな感じだったなぁ。と懐かしく思う。実家の側にある今まで使われていなかった駐車場にまゆの車を停めて荷物を取り出してすぐ側の実家まで歩く。
「春香は今日はどうするの?」
「りょうちゃんの家でお泊まりする〜」
「実家に顔くらい見せに行った方がいいんじゃない?」
「うーん。まあ、そうかなぁ…」
歩いてる途中に僕が春香に言うと春香は少し悩んだ表情をする。流石に、帰ってきたことを知らせに行って顔見せくらいした方がいい気がする。
「じゃあさ、僕の家に荷物置いて少し休憩したらちょっと近所散歩しようよ。久しぶりに地元歩きたいし、まゆに案内したいからさ、3人で散歩して春香の実家に少し顔出そう」
「うん。そうしたい」
「まゆも賛成」
などと話していると家の玄関に到着する。僕はインターホンを鳴らさずに家の扉を開ける。相変わらず鍵がかかっていない。無用心な…田舎だと、家に誰かいる時は家に鍵をかける文化がなかったりする……割とまじで……やばいよね。だから、近所のおばあちゃんがインターホンも鳴らさずに入って来て玄関で大声で人を呼ぶとか、割と普通にある。やばいよね…僕の地元だけ……かな?
春香は慣れた様子で僕に続いて家に入るが、まゆはえ?え?と困惑した表情をしていて可愛かった。
「ただいま〜」
玄関で僕がそう言うと家の奥からドタドタと足音が聞こえて来る。
「あ、おばさんお久しぶりです。お邪魔します」
「あ、えっと、その、お邪魔します」
玄関に現れた僕のお母さんに春香とまゆが頭を下げる。
「あらあらいらっしゃい。遠くからお疲れ様。春香ちゃん、久しぶりねぇ。なんかちょっと大人っぽくなったんじゃない?」
「いえいえ、そんなことないですよ…」
「あなたがまゆちゃんね」
「あ、はい」
「りょうにはもったいないくらいかわいらしいお嬢さんねぇ。こんなかわいらしい女の子2人も連れてあんた何様よ」
と、帰って早々に怒られた。いや、まあ、春香もまゆも僕にはもったいないくらいの女性なのは事実だし返す言葉もない。
「そういえば、春はいないの?」
「今日はりょうた君の家にお泊まりの日よ…」
「今日は?」
「あの子たち、付き合ってからお互いの家を行き来しているから…」
お母さんは呆れた様子で言う。春とりょうた君のラブラブ話は聞いていたが、ここまでとは…あれ、でも、僕も春香とまゆと同居しているし、人のこと言えない気がする…
「もう少ししたら夜ご飯できるから、それまでくつろいでてね」
「あ、僕たち、ちょっと散歩がてら春香の家に顔出してくるよ」
「ああ、たしかに。それがいいわね。うん。じゃあ、そうしなさい。春香ちゃんのお母さんも春香ちゃんに会いたがっていたから」
僕たちは僕の部屋に向かい、荷物を置く。しばらく誰も使っていない部屋だが、お母さんがきちんと掃除をしていてくれたみたいで埃っぽさはなかった。あれ、でも、置いていった漫画とかの位置が変わってる気がする。春の仕業かな…
「少し休憩してから行く?」
「まゆは大丈夫だよ。早く春香ちゃんの実家に行ってみたいし…ついでに春ちゃんに会いたいし」
まゆは春にメロメロだった。いいなぁ…と、妹に嫉妬しながら出かける準備をする。
「なんか、空気が新鮮な感じする!」
「それ以外のリアクションがないことはよくわかったよ」
本当に田舎すぎて何も言うことがないからね。遠くから来た人は大体そう言う。
「でも、なんか、あれだね。りょうちゃんと春香ちゃんはずっとこの景色を見てきたんだよね。だったらまゆもこの景色を見ることができてよかった」
まゆは幸せそうな表情で言う。僕と春香にとっては昔から見慣れた景色でも、まゆから見たら新しくて新鮮な景色、いろいろと思うところがあるのだろう。まゆは楽しそうに周囲をキョロキョロ見渡しながら歩いていた。
「げっ…」
曲がり角を曲がると聞き慣れた声がした。妹の春が僕を見て睨みつけてきた。怖いよ。春と手を繋いで歩いていたりょうた君はぺこりと僕に頭を下げてお姉ちゃんである春香に笑顔を向けているのに、僕の妹はかわいらしさのカケラもなかった……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます