第252話 大切な話





陽菜ちゃんのご実家に到着して、私はまず、陽菜ちゃんのお父さんに挨拶をした。陽菜ちゃんのお父さんは一流企業の上役とは思えないくらいの人格者でとても明るい印象だった。陽菜ちゃんと私の関係もあっさり受け入れてくれ4人で食事をした時もすごく楽しく会話ができた。


「あー、なんか癒されるぅ…」


陽菜ちゃんのご実家は本当に豪華だ。広くて綺麗、本物のお屋敷みたいで息が詰まっていた。そんな中、陽菜ちゃんの部屋は本当に癒される。部屋の中はすごく普通…だが、部屋のあちこちにかわいらしいぬいぐるみが置かれている。


「えへへ。かわいいですよね。このクマとかすごい抱き心地いいんですよ」


ベッドの真横に置かれている1メートルくらいはありそうな大きさのモコモコなクマのぬいぐるみを陽菜ちゃんがおすすめしてきたので、私はクマのぬいぐるみをギュッと抱きしめる。たしかに抱き心地がいい。


それにしても、すごい数のぬいぐるみだ。20…いや、30はあるだろうか…


「ぬいぐるみだらけだね」

「あはは…まだいますよ。多すぎて何人かお母さんの部屋で預かってもらったり、家の空き部屋に何人か置いてあったりしますから…月1くらいで入れ替えますけどね…」


人?ぬいぐるみを何人と数えることが少し気になり、それくらいぬいぐるみを愛しているのかな。と私が思った時だった…


「このぬいぐるみたち全員、陽菜が入院した時に両親とか祖父母が買ってきてくれたんです。陽菜、泣き虫だから1人でも寂しくないように…って…だから1人1人に愛着があって絶対に手放せないんですよね」


陽菜ちゃんは笑顔でそう言った。ぬいぐるみを愛していたのではなく、ぬいぐるみしか愛せなかったのだ。すごく、悲しい理由だった。


「陽菜が望めば、私はずっと側にいるからね」


私は陽菜を抱きしめながらそう言っていた。私はそう言いながら泣いていた。陽菜ちゃんは私を見て「りっちゃんさんは優しいですね。ずっと、陽菜の側にいてください」と陽菜ちゃんも泣きながら私に言い、私を抱きしめ返した。


「陽菜、話したいことがあるの」


本当なら、コンクールが終わった日に話したかった。でも、コンクールが終わった日、陽菜ちゃんはすぐ帰っちゃってすぐ入院したから…


「その前に、陽菜の話を聞いてください」


陽菜ちゃんはそう言い、私から離れてクッションの上に座り私と向き合う。


「話して…」


私が陽菜ちゃんに話すように言うと、陽菜ちゃんは深呼吸して息を整える。


「陽菜、今回入院して、今までにないくらい寂しかったです。入院していなかったら、りっちゃんさんと楽しく過ごせたのに、とか、早くりっちゃんさんに会いたいとか、そう言うことばかり考えていました」


陽菜ちゃんは儚い表情で言う。私も、寂しかった。でも、陽菜ちゃんはずっと病室で1人、私なんかとは比べられないくらい寂しかっただろう。


「こんなに寂しいって感じたの今までで初めてで、陽菜、本当にりっちゃんさんに大切にしてもらってるんだな。って思いました。他にもいろいろ考えたんです。りっちゃんさんの将来とかいろいろ…でも、その中に陽菜の将来はなかったんです…それで、陽菜、思ったんです。りっちゃんさんの将来の隣に陽菜の将来が存在して欲しいって…」


陽菜ちゃんは泣きながら私に言う。私は、陽菜ちゃんの話を泣きそうになりながら黙って聞いていた。


「りっちゃんさん、陽菜、生きたいです。もう、戦うのは嫌でしたけど、りっちゃんさんとの未来のためなら、もう一度戦ってもいいかな。って思いました。りっちゃんさん、陽菜、生きてもいいですか?これからも、陽菜を幸せにしてくれますか?」


泣きながら言う陽菜ちゃんを迷わず抱きしめた。そんなこと、答えは決まってる。


「ずっと幸せにしてあげる。だから、生きて…」

「来年のコンクールが終わったら、陽菜、しばらく病院から出れないけどいいですか?もしかしたら…一生…」

「待ってる」


その一言だけで返事は事足りる。


「ありがとうございます」

「陽菜が退院する頃には私、卒業してるかな…働いてるかな…陽菜、退院したら2人で暮らそう。2人で暮らして、生活に慣れたりしたらさ、里子とかいただいて一緒に子育てしようよ。最近はさ、シングルマザーでも里子制度使えるみたいだしさ…」

「えー、ダブルマザーは対象になるんですか?」


陽菜ちゃんは泣きながら笑い、そう答えた。陽菜ちゃんは来年、この前入院した病院よりも大きな病院に入院する。それも、結構遠くの病院に、陽菜ちゃんは一応、休学と言う措置にするみたいだが、4年以内に退院できるかはわからない。受け入れ先の入院の手続きなどに、1年ほどかかると言われ、陽菜ちゃんはちょうどいいです。と受け入れ先の病院を紹介してくれた医師に答えたらしい。


「もう一度、あの景色を見て、きちんとリベンジしたいので…」


と、医師に笑いながら言ったそうだ。来年のコンクール、私も死ぬ気で頑張らないとな。と思った。




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