第218話 よくわからないこと
「まゆ、今日もお疲れ様」
「りょうちゃんもお疲れ様。りょうちゃん、本当に仕事に慣れてきたね」
「まゆが教えてくれたからだよ」
合宿後、最初の練習があった翌日、僕とまゆはいつものようにバイトをしてバイト後に駐車場に向かって手を繋いで歩いていた。
「ねえ、りょうちゃん、まゆ、疲れたから帰ったらマッサージして……」
「………どっちの意味?」
「普通の方だよ。それに今、まゆ、普通の方じゃない方はできない時期だから…」
「あ、そろそろだったね。ごめん」
「いいよ。許してあげるから帰ったら普通にマッサージして」
「はいはい」
そんなやり取りをしながら車に乗ってアパートに帰る。
「………僕、車の免許取ろうかな」
「急だね…」
「うん。でも、あった方がいいじゃん」
「まあ、そうだね。そういえば春香ちゃんもこの前同じようなこと言ってたよ」
「へーそうなんだ。じゃあ、春香と一緒に車校行こうかな」
僕が何も考えずにそう呟くとまゆが不満そうな表情をする。春香だけずるい…と言うことだろうか……
「ダメかな?」
「春香ちゃんだけずるい…」
「それを言うなら今のまゆだって春香からしたらずるい…ってなるよ」
「そうだけど…」
まゆは明らかに不満そうな表情をする。いつもよりピリピリしている気がするが、女の子の日だから仕方ないだろう。
「まあ、今すぐ免許取りに車校に通い始めるわけじゃないからさ、この話はこれくらいにしよ。ごめんね。まゆの気持ちも考えずに言っちゃって…」
「あ、ううん。大丈夫。ごめん、まゆもちょっとピリピリしてた…」
「大丈夫だよ。仕方ないことだからさ。今日は帰ったらゆっくり休んでね」
「ありがとう」
彼女が、女の子の日の時、彼氏はどう対応するのが正しいのだろうか……わからないし、難しいことだが、僕は極力ストレスを与えないように気遣いをすることを心掛けている。
「りょうちゃん、なんか、本当にごめんね」
「いいよ。気にしないで大丈夫…」
気にしないで。って言ってもまゆは気にするよね。まゆは優しい子だから…
「じゃあさ、まゆが落ち着いたらマッサージしてよ」
「りょうちゃんのえっち……」
「あ、違うよ。そっちじゃなくて、普通に…最近、肩こりひどいからさ…お願い」
「わかった。いいよ。まゆが落ち着いたら両方相手してあげる」
まゆは笑顔で言ってくれる。気を遣いすぎてまゆの負担になったら元も子もないから、こうやって、落ち着いたら何かして。と言ってあげるのも大切かもしれない。
一緒に暮らしていなければ、女の子の日は合わないようにする。という選択肢もあるだろうけど、同居している以上はきちんと向き合わないといけない。春香はあまりピリピリしないタイプだけど、まゆはちょっとピリピリしやすいみたいだ。個人差も仕方ない。これくらいのことは受け入れてあげないといけない。じゃないと、長続きなんて到底できないだろうから。難しい課題だが、きちんと向き合わないと。
「どう?まゆ?気持ちいい?」
アパートに帰り夕食を食べ、後片付けをした後、リビングで布団を敷いてまゆの背中をほぐしてあげる。まゆがストレスを感じないように適度な強さでゆっくりとマッサージをしてあげる。
「あー、うん。疲れがとれるぅ…もう少し強くして欲しいかな」
「はーい」
そんな感じでしばらくまゆにマッサージをしてあげる。まゆは背中や足を中心にマッサージしてあげる。本屋さんの作業はずっと立ちっぱなしで本当に足や背中がキツくなるから…
「あー、まゆちゃんだけいいなぁ。私もやって」
「まゆ、いい?」
「うん。りょうちゃん、ありがとう。じゃあ、まゆお風呂入ってくるね」
お風呂から出た春香がまゆと入れ替わりで布団の上に横になる。
「春香、どこマッサージして欲しいの?」
「肩でお願い…最近、肩こりがすごくて……」
春香と入れ替わりでお風呂に向かおうとしていたまゆが大きく舌打ちをした音が聞こえた。春香さん、お願いだからまゆを刺激しないで……でも、最近、ちょっと大きくなったような………
「そんなにおっぱいが好きならおっぱいと結婚すれば良い…」
まゆがかなり不機嫌な声でつぶやいてリビングから出て行った。うつ伏せになっていた春香の胸をちょっと見ていただけなのに…
女の子の日だから仕方ない……いや、女の子の日じゃなくても、まゆは同じような反応をしたような気がする。
別に胸が大きい女の子が好きってわけじゃないんだよ。まゆみたいな女の子も大好きだし…(まゆにこんなこと言ったら本気で怒られそう)
女の子からしたら、胸の大小で優越感とかあるのかな?女の子の気持ちはよくわからん……
女の子の日と言い、胸のことと言い、女の子の気持ちをいろいろと考える1日だった。女の子の気持ちって難しいし男の僕ではよくわからない。
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