第200話 合宿の夕食





「りょうちゃん、はい。あーんしてあげる」

「ま、まゆちゃん…ずるい…私も……」


基礎合奏と通し合奏を行い、夕食の時間、複数の長テーブルに分かれて座り、僕を挟んで座っていたまゆと春香が競うように夕食を僕に食べさせようとしてくれる。嬉しいけど…合宿中は控え目に…はどこに行ったのやら……


「ほら、さきもこう君にあーん。してあげないと…」

「え、あ、え…うぅ……」


僕の正面に座るゆいちゃんが揶揄うように隣に座るさきちゃんに言うとさきちゃんは顔を赤くしながらチラッと隣に座るこう君を見つめる。夕食前に、さきちゃんから、聞いたのだが、どうやらいろいろあったが2人は付き合うようになったらしい。いやぁ…見つめ合ってお互いに照れてる辺り、すごく初々しくて見ているこちらまでニヤついてしまう。


「あっ、りっちゃんさんには…陽菜が、あーん。してあげますよ」

「えー。自分で食べれるから大丈夫だよ」


春香の隣に並んで座っている陽菜とりっちゃんさん、陽菜はどうやら…本気みたいだ。


「じゃ、じゃあ、私はゆいちゃんにあーん。してあげる」

「あ、いえ、間に合ってます」


ゆいちゃんの隣に座るみはね先輩が寂しそうな表情をしていたゆいちゃんに言うと、ゆいちゃんは即答する。みはね先輩はかわいい。と認定した後輩相手だとすぐにおふざけモードになるみたいだ。おふざけモードになったみはね先輩の扱い方をすでにマスターしているゆいちゃんすごい。


「ほら、さき、こう君が期待しちゃってるよ」

「え…いや、そんなことは……」


みはね先輩を軽くあしらった後、ゆいちゃんがさきちゃんに言うと、さきちゃんのとなりに座っているこう君が顔を真っ赤にしてさきちゃんを見つめる。さきちゃんにこのテーブルに座っている全員の視線が集まると、さきちゃんは顔を真っ赤にしながら箸を手にして、目の前に置かれているおかずの唐揚げを一つ掴む。


箸で掴んだ唐揚げを落としても大丈夫なように少し離れた場所に左手を添えてそのままこう君の方を向き、こう君と向き合う。さきちゃんとこう君、お互い顔が真っ赤になって見つめ合う。


「こ、こう…君……は、はい。あーん。して…」


さきちゃんが手をめちゃくちゃ震えさせながら言うとこう君は顔を更に真っ赤にして口を開いた。さきちゃんの顔も更に真っ赤になり、めちゃくちゃ震える唐揚げをこう君に食べさせてあげる。


「「はぁ…はぁ…」」


あーん。が、無事に終わるとこう君もさきちゃんもめちゃくちゃ息を切らしていた。なんか、懐かしい。春香に初めてあーん。してもらった時はこんな感じだったなぁ…そういえば、まゆの時は結構すんなりだった気がする。まあ、まゆの時は…いろいろあったからなぁ……と、昔のことを懐かしく思いながらこう君とさきちゃんのやり取りを見つめていた。


「さき〜めっちゃかわいかったよ。え、2人ともめっちゃお似合いじゃん」

「ゆい、あと、りっちゃんさん、その動画、私に送ってすぐに消してくださいね」


顔を真っ赤にしながらも、冷たいオーラを放ち、さきちゃんがゆいちゃんとりっちゃんさんに言う。この2人、ちゃっかり動画回してるからなぁ……


「さき、僕にも送ってね」

「え、あ、うん。わかった」


ちゃっかり動画を欲するこう君が少し可愛かった笑


「じゃあ、次は陽菜の番ですね!」


陽菜が目を輝かせながら、りっちゃんさんに顔を向けてりっちゃんさんに言うと、りっちゃんさんは「え、本当にするの!?」と、結構驚いていた。


陽菜は意気揚々と箸を掴み、唐揚げを掴んでりっちゃんさんの口元まで運ぶ。


「はい。りっちゃんさん。あーん。ですよ」


陽菜の満面の笑顔付きのあーん。りっちゃんさんは戸惑いながらも嬉しそうに受け取っていた。ちなみに、いつもりっちゃんさんに動画を撮られている被害者(同じテーブルにいたほぼ全員)が、いつもの仕返しとでも言うように陽菜とりっちゃんさんのやり取りを動画に収めていた。




「じゃあ、次はお返しの時間!」


と、ゆいちゃんが言うと、さきちゃんと陽菜の表情が一層輝いた。


ゆいちゃんに、先程あーん。されたお返しをしてあげないと!とごり押しされてこう君はさきちゃんに、りっちゃんさんは陽菜にお返しのあーん。をすることになった。


まずは、こう君、先程のさきちゃんの様にめちゃくちゃ震えながら唐揚げを持つ。


「さき、口…開けて……」

「あ、うん……」


はー。見てて癒される。めっちゃ初々しさを感じる2人のやり取りは本当に見てて癒される。


その後は、りっちゃんさんが陽菜に唐揚げを食べさせてあげたのだが、すごくイケメンだった。なんか、もう、ここまで来たらヤケクソだ。と言うようにりっちゃんさんは全力で陽菜を悶えさせにかかっていた。


箸で唐揚げを掴んだ後、りっちゃんさんは手を下に添えるのではなく、陽菜の顎に当てて、りっちゃんさんの手で陽菜の口を開かせる。抵抗する間もなくそんなことをされて陽菜はめちゃくちゃ悶えていた。




ちなみに、初々しいカップルと百合カップルに発展しそうな2人のあーん。合戦が行われている隙に僕と春香とまゆはこそっと、あーん。をし合っていました。





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