第196話 セクション練習
「さて、じゃあ今から2時間、低音セクション頑張りましょう」
午後の中盤はセクション練習、セクション練習はパートではなく、似たような動きをする楽器が集まって行う練習だ。
セクション練習は、低音セクション、中低音セクション、高音セクション、打楽器セクションに分けて行われている。木管セクション、金管セクション、打楽器セクションに分かれて行うこともあるが、今回は細かく分けて細部を合わせることを目的としている。
及川さんは高音セクションの指導担当に向かった為、低音セクションにはいない。
中低音セクションはユーフォのあーちゃん先輩が、打楽器セクションはパーカッションのパートリーダーの三久先輩が指導担当だ。
低音セクションはりっちゃんさんが指導担当、当初、低音セクションは及川さんが行う予定だったが、「高音セクションが不安すぎるからりっちゃんよろしく」と、りっちゃんさんの肩をポン。と叩いてりっちゃんさんの返事を聞かずに高音セクションに向かってしまった。
幸い、低音セクションは2年生と1年生しかいない。りっちゃんさんは少しホッとしながら、「真面目に楽しく頑張ろー」と呼びかける。呼びかけに対して、バリサク2人組が「おー」とノリノリで返事していたが、他はすごく大人しい。低音って、大人しい人が集まる確率高い気がする。
低音セクションのメンバーは…
バストロンボーン りっちゃんさん
バリトンサックス みはね先輩、陽菜
ファゴット こう君
バスクラリネット ゆうなちゃん(1年生)
チューバ 僕、春香
コントラバス 水月先輩
ちなみに、テナーサックス担当のまゆは中低音セクションに行っている。「まゆも低音セクションがいい…」と、セクション練習が始まる少し前にまゆと会った時に言われた。まあ、そんな要求が通るわけないので大人しく中低音セクションに向かってもらったが、少しだけムスッとした顔をされた。
低音セクションに参加しているメンバーで、僕はあまり関わったことがない人がいる。まず、バスクラリネットの松本優奈ちゃん、僕と同じ1年生で無口な仕事人って感じの女の子、めっちゃ上手い。大人しい性格なのに、短めの髪を茶色に染めていて大人しいのかはっちゃけたいのかよくわからない。
次に、コントラバスの吹越水月先輩、春香と同じ2年生で一言で表現すると……天然ロリ……超天然ドジっ子で超かわいらしい。2年生の中で妹キャラ的扱いをされているみたいだ。小柄で可愛らしく、ちょっと金髪っぽく染めたふわふわの髪にリボンをつけていて、なんかその、かわいさの塊みたいな人だ。
「とりあえず、軽く基礎やろうか。スケールやるよ」
扇状に椅子を並べて中心に座るりっちゃんさんは、バストロンボーンのスライドを指揮棒のように器用に動かす。りっちゃんさんの指示に従い、一斉に音を重ねる。一通り音を重ねると、りっちゃんさんは細かいところを次々と指摘し始める。すごいなぁ…と思う。よく、聞き取れるし、よく音のズレを把握できるなぁ……と、少なくとも僕には無理だ。
「以上が気になった点かな。何か他に言いたいことある人いる?私ばかりに言わせないで言いたいことは積極的に言ってね」
りっちゃんさんは笑顔で言うが、りっちゃんさんの指摘ラッシュを聞いた後で言うことなんてない。自分がダメだと思ったところ全てりっちゃんさんに指摘されたから…こそっと、指押し間違えて一瞬違う音吹いちゃったことまで指摘されて……もう、すごいとしか言いようがないよね。
「りっちゃん、Gの音ちょっと低かったから気をつけた方がいいと思うよ〜あと、ちょっとだけ練習抜けていいかな〜?」
りっちゃんさんの音について指摘しながら水月先輩がほわほわした笑顔で言う。
「そっか、ありがとう。気をつけるね。何かあったの?」
「えへへ〜ちょっと指切っちゃったから絆創膏取りに行きたいの〜」
水月先輩は笑顔で少し血が流れている指をりっちゃんさんに見せながら言う。コントラバスの弦で指を切ってしまうことは…コンバス奏者ならたまにあるらしい。午前午後と練習して疲れがたまっていたということもあるのかな。
「あちゃーそりゃ大変だ。どうぞごゆっくり」
「じゃあ、お言葉に甘えて〜あ、みずきに構わず先に進めてていいからね」
と、りっちゃんさんとふわふわした感じのやり取りをして水月先輩は部屋の隅にある鞄に向かって歩き始めた。
「じゃあ、さっそく始めようか。まず、マーチからやるよ」
りっちゃんさんの指示に従って全員が譜面台の上にマーチの楽譜を並べる。
「あ、楽譜まだいらない。しまって」
りっちゃんさんに言われて全員が?を頭に浮かべる。
「及川さんからの司令、マーチの縦完璧に合わせるようにしといて」
りっちゃんさんは笑顔で言う。マーチにおいて、低音は基本、四分音符でブンブン吹いてるだけだ。単純だが、難しい。四分音符を刻む=曲のテンポを作り出すと言う解釈だ。それがズレていてはいけない。だから縦を合わせろ。と言われたのだろう。まあ、当然だ。
「これ、マーチのテンポね」
りっちゃんさんはメトロノームを鳴らし始める。メトロノームがマーチのテンポを刻むと何人かは無意識にメトロノームのテンポに合わせて足でリズムを刻んだりしていて見ていて面白い。
「全員、B♭の音で楽譜のリズム通り吹いてね。合うまでやるから」
…………厳しいセクション練習が始まった。
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