第187話 何度目だろう。




「………りょうくん、何してるの?」


人目のなさそうなところにあるソファーに座っていた僕の近くを通ったゆいちゃんが引きつった笑みを浮かべながら僕に尋ねる。………まあ、そういう反応になるよね。


僕は、はぁ…と溜息を吐きながら目線を下に下ろす。すると、僕の太腿を枕代わりにして幸せそうに眠っている2人の可愛らしい女の子が視界に入る。


「なんか…りょうちゃん成分が足りないって言われて呼び出されて…このままだと練習頑張れないから…って……」


結構長めのソファーの真ん中に僕を座らせて、春香は僕の右側から、まゆは僕の左側から頭を僕の太腿に乗せてぐっすり眠っている。長いソファーとは言え、春香とまゆが足を伸ばして横になれるほどの幅はなく、2人とも足を曲げているが…よく寝ている。呼び出されてから30分くらい経っただろうか…朝食の時間まであと40分くらいあるからもう少しゆっくり眠れるかな…と思いながら僕は春香とまゆの頭を撫でて、2人を起こさないように小声でゆいちゃんに状況を説明した。


「何それ…わけわかんない…」


ゆいちゃんは笑いながら困惑していた。まあ、そうなるよね。僕もまゆから「りょうちゃん成分が足りないの!」って言われた時は訳わからなかったし……


「まゆが言うには、僕と一緒に寝ないとやる気が出ない体になっちゃったから責任とって膝枕してって…春香はそれに便乗した感じ…」

「謎理論すぎる…」

「だよね」

「………私も、りょうくん成分欲しいなぁ」


幸せそうに眠っている春香とまゆを羨ましそうに見つめながらゆいちゃんは呟いた。ゆいちゃんの呟きを聞いた僕はきっと、困った表情をしていたのだろう。僕の表情を見たゆいちゃんは笑顔で「冗談だよ。冗談!困らせてごめんね」と僕に謝る。


「そういえば…ゆいちゃんは何してるの?」


まゆが、ここならまず、人に見られることはない。と言っていたのに、ゆいちゃんがここを通りかかった理由は気になっていた。微妙な雰囲気を変えるためにも僕はゆいちゃんに尋ねて話題を変えた。


「うーん。お散歩?部屋の居心地が悪くてさ…あーちゃん先輩は朝から及川さんと練習計画の確認をしに外行っちゃったし、まゆ先輩と春香先輩はいつの間にか部屋からいなくなってるしゆき先輩は爆睡してて起きないし、陽菜ちゃんはりっちゃんさんにベタベタだし…1人で暇だったからお散歩してた」


陽菜がりっちゃんさんにベタベタって…まじか…昨日のりっちゃんさんと陽菜を思い出して、まさかね。と思うが…答え合わせはできない。


「あれ、さきちゃんは?」


たしか、さきちゃんはゆいちゃんと同じ部屋だったはずだけど……


「あー、えっとね。さきは今…頑張ってるよ」

「………何を?」

「りょうくん、女の子はね。男の子に言えないこともあるの。りょうくん、デリカシーないよ」

「え、あ、ごめん」


デリカシーない…ショック……いや、でも、普通気にならない?頑張ってる。って何を頑張ってるの?


「あはは、冗談だから間に受けなくていいよ。さきはね。こう君のところにいるはずだよ」


デリカシーがない。と言われてショックを受けていた僕にゆいちゃんは笑いながら言うのでちょっと安心した。って…え?こう君??


「え?告るの?」

「りょうくん、それ聞いたらデリカシーないって本気で言うよ。あと、大きな声出さない方がいいと思うよ」


ゆいちゃんは春香とまゆを見ながら言う。驚いてつい大きな声を出してしまったが、春香とまゆを起こさなかったみたいで安心した。いや、でも…え、さきちゃんがこう君のところにいる。って…急展開すぎない??状況を理解できていない僕は頭の中に?を浮かべまくっていた。


「ここだけの話にしてね。さっき、私、こう君に告られたんだ」

「は?」


また大きな声を出してしまったが、春香とまゆは目を覚ます気配すらない。よかった。


「もちろん断ったよ」


ゆいちゃんは笑顔で僕に言った。まるで、僕以外の男には恋愛対象として、興味ないから。と僕に伝えようとするような笑顔だった。


「そう…なんだ。それで…なんでさきちゃんが?」

「さき、昨日こう君にふられたの」

「は?」


もうダメだ。頭の中がぐちゃぐちゃになる。わけわからん。え、僕が春香とまゆと外にいる間に何があったの?


「まあ、いろいろあってさ、今朝、私がこう君をふったんだけどさ、こう君諦めようとしなくてさ、私、辛いよ。って言っちゃったんだよね。私、りょうくん以外の人を好きになる気はないからさ」


ゆいちゃんは、真剣な表情で僕を見つめながら言う。目を逸らしたかった。どれだけ、真剣に好き。と言われてもやはり、応えられないから。


「それで、さきを幸せにしてあげて、さきに幸せにしてもらってって言って、部屋にいたさきをこう君のところに行かせたわけ…」

「無茶苦茶だね…」

「こう君には辛い思いして欲しくないし、さきに幸せになって欲しいからさ」


ゆいちゃんは真剣な表情で僕に言う。僕がそっか…と答えてしばらく間が空いた。その間、ゆいちゃんは僕を見つめていた。


「りょうくん、好き」


何度目だろう。この子に好き。と言われるのは…これ以上この子を傷つけたくないのに…


「今、答えを聞くのは無理そうだね。ごめんね。じゃあ、また後でね。練習頑張ろう」


ゆいちゃんは笑顔で僕にそう言い残してその場からいなくなる。急にどうしたんだろう。


「りょうちゃん、説明して」


目を覚ましていたまゆが頬を膨らませて僕の顔を見上げながら不満そうに言った。





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