第186話 2度目の告白





「こう君…その…大丈夫?」


私は、自販機の前に向かうとこう君がボーっと立っていた。


「さきちゃん、どうしてここに?」

「ゆいに…すぐに行けって言われたから……」


部屋で練習に備えて楽譜などの準備をしていた私のところに、ゆいがすごい勢いでやって来て、私に自販機のところに向かうように言ってきた。訳がわからなかったが、私はゆいに手を引かれて部屋を連れ出されてゆいに頑張って来て!と背中を押された。


どういうことだろう…と思いながら自販機に向かうと、こう君がいて…なんとなく、察しはついた。


「そっか…ゆいちゃんも強引だなぁ」

「そう…だよね……」


こう君が作り笑いで言うのを聞いて、私は複雑な気持ちになる。なんて言えばいいのかわからなかったので、とりあえず適当な返事をしてしまった。


「さきちゃん、僕、ゆいちゃんにふられたんだ…」

「そうなんだ……」


こう君は悲しそうな表情で私に言う。やっぱりか…と思いながら、私は言葉が出てこない。


「ゆいちゃんに言われたんだ。さきちゃんを幸せにして、さきちゃんに幸せにしてもらってって…ゆいちゃんみたいに…苦しまないでって…」


ゆいみたいに苦しまないで……私は、ゆいがそう言ってしまう気持ちもわかる。ゆいの次に…その気持ちを知っているから…ゆいの側にずっといたから…その気持ちはわからなくても、知っている。


「こう君…私は……今じゃなくてもいいよ。いきなりだったし…こう君もまだ…落ち着いていないでしょう?だから…まずは…友達からでもいい。私を見て…それで…私を好きになってくれたらでいい。私は…こう君のこと、好きです。私と…付き合ってください」


私が告白して、空白の時間が生まれる。辛い。苦しい。生きた心地がしない。ドキドキして…心が熱い。


「さきちゃん、ちょっと…ごめん」


こう君は私に背を向けて…泣いた。

ゆいにふられた辛さからの涙なのか…私に…失望した涙なのか…私にはわからない。昨日ふられたのに…こう君がふられた直後に告白してしまったんだ。失望されても……仕方がない。と思う。


「その…ごめんなさい…」

「さきちゃんは…何も悪くないよ…謝らないで……」


こう君は泣きながら私にそう言ってくれた。こう君の言葉を聞いて…少し安心した。


「ごめんね…急に泣いちゃって……その、ゆいちゃんにふられてさ…僕、ゆいちゃんを諦めたくないって思ったのに…ゆいちゃんに辛いよ。って一言、言い切られたら何も言えなくなって…すごく落ち込んでた……」

「そうなんだね……」

「うん。そんな僕のことを…まだ、好きって言ってくれたことが嬉しくて……」


「こう君…好き。私は何度でも言うよ。こう君のことが好きって…だから…私を…見てください。好きになれとは言いません。ただ、少しでいいから…私に目を向けて……徐々に好きになってくれたら嬉しいです」


ゆいを諦めて私を好きになれ。と言うことは絶対にしたくないし、できない。私はゆいと比べて、劣っている。ゆいは私より数多くのものを持っているから…だけど、少しでいいから…私を見てほしい。それで…私を好きになってくれたら…嬉しいよね。


私は私に背を向けて泣いていたこう君を後ろから抱きしめてこう君に言う。


「さきちゃん……昨日、ふっておいて…こんなこと言うと…掌返しみたいな感じで嫌がられるかもしれないけどさ…今、さきちゃんに優しくしてもらって…すごく嬉しいんだ。すごく幸せで…ドキドキする」


こう君はそう言いながら、私の手を優しく払って、涙を拭ってから私と向き合った。


「さきちゃんのこと…たぶん、好き。です。でも…やっぱり、まだ、ゆいちゃんのことを忘れられない。こんな気持ちでさきちゃんと付き合いたくない…だか……」

「好きなら付き合って。こう君が私のこと、好きって思ってくれているのなら…お願い。絶対にこう君を幸せにする。すぐに…私に夢中になってもらえるように、私、頑張るから……絶対、後悔させない。絶対、幸せにするから…お願い…します」


こう君の言葉を遮って、私はこう君に言った。心が熱い…もう無理、心が熱くて…もう、立ってられない。


「さきちゃん…ありがとう」


ダメ…かな……

ありがとう。と言う言葉を聞いて、私はそう思った。


「僕も、僕を好きになってくれたさきちゃんに…後悔させない。絶対、幸せにするよ。こんな僕でよかったら……付き合ってください」


その言葉を聞いて、私は安心した。

熱かった心は、私を苦しめていたが…こう君の返事を聞いて、緊張が緩み、足に力が入らなくなる。


「お、大丈夫?」

「あ、うん。ごめんなさい…ちょっと…嬉しくて、安心して、力が抜けちゃった……」


足に力が入らなくなり、こう君の方に倒れそうになった私をこう君は受け止めてくれた。そのまま、こう君は私を抱きしめてくれた。


「僕のこと、好きになってくれてありがとう。絶対、幸せにするね」

「うん…今、十分幸せ…私も、こう君を幸せにできるように頑張るね」

「ありがとう。こんな僕だけど、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


私とこう君は付き合うことになった。

すごく幸せだけど…ゆいに、申し訳ない気持ちもあった。







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