第165話 心配事





「で、まゆはどうしたの?」


まゆと入れ違いで春香がお風呂に入りに行った後、僕はまゆを抱きしめながらまゆに尋ねる。まゆの様子も…少し変だったから…


「どうしたの?って?」

「気づいてるからね。何かあったんでしょ?大丈夫?」

「誤魔化せられなかったか…なんか、ごめんね。春香ちゃんのことが終わったばかりなのに…」

「大丈夫だよ。このくらいのこと、全然平気だから頼ってくれていいんだよ。こうなることも覚悟した上で2人と付き合うって決めたんだから…」


僕に抱きついているまゆの頭を撫でてあげながら僕がまゆに言うとまゆはありがとう。と僕に言う。


「陽菜ちゃんのこと…なんだけどね……りょうちゃんと春香ちゃんには黙っててほしいって言われてるけど……ごめんなさい。りょうちゃんと春香ちゃん、陽菜ちゃんに後悔して欲しくないから…りょうちゃんに伝える。りょうちゃんからしたら辛い話だと思うけど大丈夫?」

「うん。話して」


陽菜のこと…と言われてちょっと意外だったのだが…まゆの話を聞いて……何て言えばいいのかわからなかった。どうすればいいのかわからなかった。いや、たぶん、陽菜は何もして欲しくないのだろう。これからも何も知らない僕と春香に何も言わずにその時を迎えようとしていたのだろう。それまで…自然と仲良くしていたかったのだろう…



知らなかった方がよかったのかもしれない…陽菜の口から言われない限りは知らなかった方がよかった…でも、知らずにその時を迎えたら…僕は…春香は…きっと、すごく後悔するだろう。


「まゆ、話してくれてありがとう」

「うん。ごめんね…黙っていられなくて…」

「まゆから聞いてなくて何も知らずにこのまま進んでいたら僕と春香は…後悔したと思う。ありがとう。話してくれて…」


僕がそう言うとまゆは僕をギュッと強く抱きしめてくれる。まゆの身体はすごく温かくて…ちょっと不安定になりそうだった僕の心を落ち着かせてくれた。


「春香には…少し黙っててもらっていいかな?今の春香の心にこれ以上、負荷をかけたくないし…」

「うん。わかったよ」



その日の夜は…あまり寝られなかった。ずっと…僕の腕を抱きしめながら気持ち良さそうに眠っている春香とまゆの寝顔を見て一晩を過ごした。


「………寝ないとだめだよ」


朝日が昇り始めて少し明るくなってきた時間帯に偶然、少し目を覚ましたまゆが心配そうな声で僕に言う。


「起こしちゃった?」

「ん…偶然起きただけだから…気にしないで…寝れないの?」

「うん…」

「眠いのに寝れないのか眠くないのかどっち?」

「眠いのに寝れない…」

「じゃあ、りょうちゃんが寝れるまで、まゆも起きてる。少しどうでもいいお話しながら心、落ち着かせよう」


まゆは僕の腕を抱きしめる力を強くして、優しい声で僕に言う。ありがたかった。まゆの優しさが…



「春ちゃんとりょうたくん元気かな?」

「うん。りょうたくんから連絡もらったんだけど、ゴールデンウィーク最終日は2人で初デートしたみたいだよ。いろいろハプニングがあったみたいだけど…すごく幸せそうだった」


※春とりょうたが地元に帰ってからの物語を「お互いに好きだった幼馴染みが結ばれた物語」として当サイト様で連載させていただいてます。興味がありましたら、ご閲覧頂けると嬉しいです。


「そっか…それならよかった…」

「春香がね。春に今度、ダブルデート?って言っていいのかわからないけど、5人でデートしようよ。って言われたみたいだよ」

「え、それいいね。すごく楽しそう」

「だね。機会があれば一緒にデートしてみたいね」

「うん。まゆも…りょうちゃんの彼女として認めてくれたのかな?」

「認めてくれてると思うよ。別に春が認めなくてもまゆは僕の彼女で、僕はまゆの彼氏だから安心して…」

「うん。ありがとう」


まゆは本当に嬉しそうな表情で僕に言ってくれる。まゆの笑顔をみていると…自然と心が落ち着く気がした。



「寝ちゃったか…よかった。おやすみ。りょうちゃん」


まゆと話し始めてから少しして、りょうちゃんが眠ったのを見て、まゆは安心する。おやすみ。と言いながらまゆはりょうちゃんの頬に軽くキスをする。眠いのにりょうちゃんが寝るまで話し相手になってあげたんだからこれくらい許してくれるよね……まゆも眠いからもう一眠りしようかな……


「まゆちゃん…」

「春香ちゃん、もしかして起こしちゃった?」


まゆが眠ろうとするとまゆと反対側でりょうちゃんの片腕を抱きしめながら眠っていたはずの春香ちゃんに声をかけられた。まゆとりょうちゃんの話し声で起こしてしまったのかな…と思い申し訳ない気持ちになる。


「うん。ちょっと目が覚めちゃって…」

「そっか、起こしちゃってごめんね」 


りょうちゃんの顔で隠れて春香ちゃんの顔は見えないが、まゆは春香ちゃんに謝る。 


「大丈夫だよ。まゆちゃん、今日、私のことでりょうちゃんの話聞いていたりしてくれてた?」


今日…というよりかは昨日…が正確な気がする。まゆは春香ちゃんとりょうちゃんが話しやすい環境を作っただけで他は何もしていない。でも、まゆが陽菜ちゃんのことで悩んでいたのを春香ちゃんは自分のせいで悩んでいると思っているのかもしれない。

なら…春香ちゃんには申し訳ないが…もう少しだけ、そう思っていてもらおう。りょうちゃんと約束したし、春香ちゃんには今、頑張らないといけないことがあるから…


「まゆはりょうちゃんに何も言ってないし、何も聞いてないよ。ただ、りょうちゃんと春香ちゃんが話しやすいように2人の時間を作ってあげただけ…もし、まゆがお風呂入っている間に解決してなかったらどうしよう…とか考えて不安だったけど…安心したよ。春香ちゃん、頑張ってね」

「うん。ありがとう。心配かけてごめんね」

「いいよ。これくらいのこと…春香ちゃんはまゆの大切な人なんだからさ…」

「うん。ありがとう」


上手く…誤魔化せたみたいだ。ごめんね。春香ちゃん。でも、春香ちゃんは今は…集中しないといけないことがあるし…たぶん、この話を聞いたら余裕が完全になくなって不安定になるから…今は絶対に話せないよ。


まゆは心の中で春香ちゃんに謝罪しながらりょうちゃんの腕を抱きしめながら眠りについた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る