第141話 逃げないで。





「りょうちゃん、春香ちゃん、記念に3人で写真撮ろうよ」


昼食を終えた後、まゆちゃんはスマホを持って私とりょうちゃんに声をかけてりっちゃんにお願い。と言ってスマホを預けていた。


「ほら、春香ちゃん、一緒に写真撮ろう」


まゆちゃんは私の腕を掴んでりょうちゃんの横に移動して背景の景色が良さそうな場所に立ってりっちゃんにお願い〜と声をかけた。最初はまゆちゃんが真ん中で私とりょうちゃんがまゆちゃんの左右に並ぶ。


「りょうちゃんも春香ちゃんも表情固いよ。もっと笑ってよ。りっちゃん、もう一枚お願い」

「うん。わかった」


もう一枚撮るときは並び順も変えてりょうちゃんが真ん中に立ち、私とまゆちゃんがりょうちゃんの横に並ぶ。りっちゃんが何回写真を撮ってくれても、私とりょうちゃんは作り笑いをするのが精一杯だった。まゆちゃんは…どうなのだろう……もう、わからない……このまゆちゃんの笑顔が作り笑いなのか、そうでないのかが…



その後はみんなで記念撮影をした。そして、みんなで観光地を観光して回る。


有名な神社や有名なスイーツ店、景色が綺麗な場所とかを一通り見て、いろいろなところで写真を撮ったりした。


そして、夕方より少し前にはまゆちゃんの車に乗って帰路に着く。この後、どうなるのだろう…怖い。冗談であって欲しい……まゆちゃんの指輪を握り締めながら私は願う。



旅行が終わって、明日からも3人で笑って一緒にいたい。





「さきちゃん、ゆいちゃん、気をつけ帰ってね」

「はい。ありがとうございます。旅行すごく楽しかったです。また、機会があれば誘ってください」


夕食は道中のサービスエリアで簡単に済ませて高速道路から降り、さきちゃんとゆいちゃんが帰るのに楽な駅でさきちゃんとゆいちゃんは車から降りる。本来ならゆいちゃんはこの駅ではないのだが、今日、ゆいちゃんは今から地元に帰省するみたいだ。せっかく長期休みなので実家に帰るという学生は多い。旅行帰りに帰省させることになってしまい申し訳ないと思っていたが、今は都合がいいかもしれない。ゆいちゃんがいたら…まゆちゃんに逃げられてしまうかもしれないから……


あの一件があってからゆいちゃんは夜、なるべく一人でいないようにさせている。念のため、警戒をするに越したことはないので当分はそうした方がいいと思ったし、本人も一人は怖い。と言っていた。なので、夜は私たちの部屋に泊まりに来たりさきちゃんの家に泊まりに行ったり、りっちゃんかさきちゃんかりょうちゃんがゆいちゃんの部屋にお泊まりしに行くなどしてなるべくゆいちゃんを夜、アパートで一人にさせないようにさせていた。なので、今日ゆいちゃんがいたら、きっと…まゆちゃんはゆいちゃんがいることを巧みに利用して逃げようとしただろう。逃がさない。ちゃんと話してちゃんと理由を聞いて納得するまでは……


「どうしよう…先にりょうちゃんと春香ちゃんを降ろした方が早いかなぁ…りっちゃん、先にりょうちゃんと春香ちゃん降ろしていい?」

「まゆちゃん、まゆちゃんに返さないといけないものあるしお話しないといけないことあるから、先にりっちゃん降ろしてもらえないかな?」


私がまゆちゃんに言うとまゆちゃんはやっぱりこうなったか…と言うような表情をして答えに戸惑う。


「まゆ、僕からもお願い…」

「……わかった」


りょうちゃんに押し切られてまゆちゃんは渋々と言った様子で了承した。


すぐに横にいたりっちゃんから何かあったの?大丈夫?とLINEが送られてきた。まあ、そうなるよね…


私はりっちゃんにちょっとまゆちゃんとすれ違いが起こっただけだよ。だから、ちゃんと話して解決するから大丈夫。と送る。LINEを見たりっちゃんは一瞬、心配そうな表情でこちらを見たがすぐに表情を変えて、わかった。私にできることあったら言ってね。相談乗るくらいならできるからさ。と返信をしてくれた。りっちゃんにありがとう。と送るとちょうど、りっちゃんのアパートに到着した。


「まゆちゃん、運転ありがとうね。気をつけて帰ってね」

「うん。お疲れ様ゆっくり休んでね」


車から降りるりっちゃんとまゆちゃんはそんなやり取りをして私とりょうちゃんはりっちゃんにまたね。というようなことを言う。


まゆちゃんが車を動かし始める。さきちゃんとゆいちゃん、りっちゃんが居なくなって車の中には私とりょうちゃん、まゆちゃんの3人だけになった。


車が動き始めてからしばらくは無言だった。りょうちゃんも私もまゆちゃんに何て言えばいいのか、何を聞けばいいのかまとまっていなかったからだ。まゆちゃんは話そうとしない。このまま何も話さないで逃げようと思っているのだろう。それだけは絶対にさせない……


「春香、まゆから話を聞いたってことでいいんだよね?」


そっか、りょうちゃんは私がまだ何もまゆちゃんから聞いていない可能性があるかもしれない。と思っていたから話すのを躊躇っていたのか……いや、でも…わかっていただろう。りっちゃんを降ろす前のやり取りから考えると…りょうちゃんは私が知っていることを知っていた。それなのに少し沈黙していたのは……きっと、りょうちゃんも何がなんだかわかっていないのだろう。




まゆちゃん、説明して、お願いだから…


このままさようなら。は嫌だよ。



私はりょうちゃんの問いに対して頷いて返事をした。それを見たまゆちゃんは逃げられないか…というような表情をしたのをミラー越しにだが私は見逃さなかった。


お願い…話して……









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