第128話 バカな親友





お願いだから…放っておいてよ。


お願いだから…私に構わないで…


お願いだから…私の好きにさせてよ。私はね。私のしたいことをしているだけなんだよ。


心配してくれているさきの横で私はそう思っていた。今日、さきに会ってからずっと心配されている。昨日、あいつと一緒にいたところを見られていたようだ。


りっちゃん先輩からも心配をされた。この前の一件のことを知っているから仕方ないか……


私はさきとりっちゃん先輩から逃げるようにパート練習に向かった。パート練習の時間や、休憩時間、ゆき先輩も私に気を遣ってくれているような気がして居心地が悪い。それは音にも現れていた。絶不調な音を理由に私はパート練習を抜けて1人で練習をすることにした。その前に…少しだけ休憩がしたくて私はホールを出た。


「お疲れ様」


私が休憩をするためにホールの外のベンチに座っているとタイミングを測ったようにりょうくんが現れた。


「お疲れ様、パート練習行かなくていいの?また、春香先輩にしごかれちゃうよ」


私は笑顔を作って大好きな君に声をかける。お願いだから…早く、私から離れて…という想いを込めて……


「春香にはちゃんと許可もらってきたよ。隣座っていい?」

「いいけど、私もうホール戻るよ。練習しないといけないしさ…」

「辛そうな音…してたってね」


りょうくんにそう言われて私はドキッとした。お願いだから…そんなこと言わないでよ。私は私がしたいことをしているだけなんだよ。大丈夫だから…


「何かあったの?」


私の隣に座ったりょうくんは私に優しい声で尋ねてくれた。ダメだ。泣いちゃダメ……泣くな……お願いだから…ね……


「ゆい…ちゃん?」


ダメだ。私の心を否定するように涙が止まらない。泣いてしまった私の背中をりょうくんは優しく摩ってくれる。りょうくんの手は…温かい……


「ごめんね。ゆいちゃんがさ、僕たちのことで揉めたこと聞いたからさ…その、ありがとう。とごめんなさい。って気持ちを伝えたくて…」


誰だよ…りょうくんに教えたのは……やめてよ。さきかな?りっちゃん先輩かな?言わないでよ。言わないでよ。と思いながらもそこまで嫌悪感はない。たぶん、知られたくなかったわけではない。だって私は…心の奥底で…君に助けを求めているのだから。


「大丈夫?なんか、ゆいちゃんが辛そうって聞いたからさ…」

「大丈夫だよ」

「じゃあ、なんでそんなに泣いてるの?」


りょうくんは私の涙を拭いながら私に聞いてくれた。優しいなぁ……りょうくん。助けて……


「ゆいちゃん、何かあったなら相談に乗るよ。僕だけじゃない。ゆいちゃんのこといろんな人が心配してるからさ…辛い思いをしているなら話して…」


りょうくんにそう言われて私は全てを話した。泣きながら、あったことを全て話した。何があって、今どんな状況で、私がどう思っているのか、全て…話終わるまでりょうくんは何も言わずに私の話を聞いてくれた。


「バカ」


私の話を聞き終えるとりょうくんは一言そう言って私の頭を軽く叩いた。痛くない…けど…痛い。でも、すごく嬉しい気がする。


「本当にバカ、もう知らない。勝手にバカみたいなことして、何様だよ。あームカつく。もう絶交だわ。ムカついたから僕は勝手にいろいろするけど絶交したしもう話しかけないでね。僕が何をしても文句言わないでね」


りょうくんは私にそう言い残して私の横から居なくなった……





りょうくんが居なくなって少しするとさきがやってきて無言で私の隣に座る。


「バカだね。ゆいは…」


開口一番でバカにされた……しかも真顔で……冗談ではなく本気でそう思っているのだろうな…バカでごめん。


「りょうちゃんから伝言、あの日の約束はもう知らない。絶交だから。ゆいちゃんの心が落ち着いて問題が解決したら謝りに来て。その時、また新しく約束しよう。だってさ…なんのことか私にはよくわからないけど、よかったね」


結局…迷惑かけちゃったな…君のためって思って行動したのに、結局君を困らせてしまった。君の役に立ちたくて…君の幸せを守ってあげたくて…結局…君に余計な手間をかけてしまった。ごめんね…ありがとう。こんな、バカな私を見捨てないでくれて……


「今回のことが片付くまで私はゆいの側にいてあげてほしい。って言われたから…仕方ないから、バカな親友の側にいてあげる」


さきはそう言いながら私の手を握ってくれた。温かい。すごく温かい。


「ありがとう」

「いいよ。私が側にいないとバカな親友はまたバカなことしそうだから…」


さきはそう言いながら私の手を強く握った。大丈夫。私が側にいるから…と……


気づいたら私は再び泣いていた。でも、何故だろう。今回、私の瞳から流れる涙は温かい気がした。先程の冷たい涙とは違う。そう、まるであの日…大好きな君と再会した日に感じた…大好きな君の温もりのような温かさを私は感じた。





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