第118話 バイト2日目




4人でお泊まり会をした翌日、僕はまゆ先輩と2回目のバイトに向かう。2回目だとまだ緊張する。まゆ先輩が言うには、今日のシフトは店長さんともう1人、まゆ先輩と同い年の女性の先輩がシフトに入っているみたいだ。ちなみに、僕とまゆ先輩が付き合っていることは職場で完全に認知されているらしい…


ショッピングセンター内の大きい本屋さんだと、社員さんとパートさんを合わせて役30人ほどでシフトを回しているみたいだ。30人もいると、当然、シフトが被らない人もいるわけだが…そういう人たちも僕とまゆ先輩が付き合っていることを知っているのだろうなぁ……


そう考えるとかなり恥ずかしい気がするが…気にしてても仕方ないか…バイト頑張ろう。




僕とまゆ先輩が本屋さんに到着して裏でエプロンを付けていると文恵さんともう1人、年配の女性の方がシフト上がりで入れ違いになった。とりあえず、軽く挨拶したが、やはりまゆ先輩と付き合っていることは知られていた。


「え、まゆちゃん、その子がまゆちゃんの彼氏?」


僕とまゆ先輩がレジに向かうとレジでブックカバーを折っていた女性がまゆ先輩に尋ねる。


「みーちゃん、あまりそういう言い方しないでよ…恥ずかしいじゃん…」

「えー、いいじゃん。みんな知ってるし、えっと、りょうちゃんだっけ?よろしくね。私は宮崎未羽、まゆちゃんにはみーちゃんって呼ばれてるけど、りょうちゃんはみはね先輩って呼んでね」


明るく、元気な感じの茶髪の女性が僕に言う。まゆ先輩とはかなり仲がいいみたいだなぁ…と、2人のやり取りを見てて思った。


「よろしくお願いします。みはね先輩」

「せ、先輩…りょうちゃん、今度ジュースかなんか奢ってあげる」

「え…あ、ありがとうございます」

「みーちゃん。ずっと後輩欲しがってたから後輩ができて嬉しいんだよねー」

「まゆちゃん、後輩の前で変なこと言わないで…」

「はいはい。ごめんなさい。じゃあ、まゆとりょうちゃんでレジ作業するから、みーちゃんは店内よろしくね」

「はーい。りょうちゃん、わからないこととかあったら聞いてね。仕事のことだけじゃなくて大学の授業のこととかも聞いてくれていいからね」

「みーちゃんはりょうちゃんと同じ学部だからいろいろ教えてもらうといいよ」

「そうなんですね。今度、テストのこととか教えてください」

「いいよ。いいよ。あ、あと、まゆちゃんと春香ちゃんのこととかも聞いてくれたらいろいろ教えてあげるよ。まあ、春香ちゃんのことはあまり答えられないけど」


みはね先輩がニヤニヤしながら僕に言うと、まゆ先輩がみーちゃん!と恥ずかしそうに呟く。それを見てかわいいなぁ。と思いながら疑問を口にする。


「春香のこと知ってるんですか?」

「うん。一応ね。私、吹奏楽部だから、今は休団してるけどね。元、バリサクだよ。戻る予定は今のところないけどね」


ちょっと、儚い…というよりかは…後悔しているような表情でみはね先輩は僕に言う。


「そうなんですね。みはね先輩のバリサク聴いてみたいです」

「え、そ、そう?まー、どうしてもって言うなら…機会があればね」


あ、ちょろい。たぶん、後輩にめちゃくちゃ弱いタイプの先輩だ。良いキャラしてる。


「はいはい。じゃあ、いい加減仕事に戻って」


まゆ先輩が言うとみはね先輩ははーい。と言いながらレジを出て店内の品出しに向かった。


その後、僕はまゆ先輩とレジで前回のおさらいをしてからブックカバーを折ったりする。途中でお客様が来ると、僕とまゆ先輩は並んでレジに立つ。基本的には僕1人で対応して、まゆ先輩はサポートに回ってくれている。途中で数人の列が出来てしまい、まゆ先輩が他のレジを動かし始めて完全に僕1人でお客様の対応をすることになり、緊張したが、なんとか対応することができた。


「りょうちゃん、ちゃんと1人でレジできたじゃん。もうしばらくはまゆが一緒にレジ入ろうかなって思ってたけどレジは次回から1人でやってもらおうかな」


まゆ先輩にそう言われて僕は戸惑う。やはりちょっとまだ、心細い……


「まゆちゃん、意外といじわるだねぇ…ちゃんと今月いっぱいは側でサポートしてあげなよ」


僕とまゆ先輩の後ろで僕たちのやり取りを聞いていた店長さんが笑いながら言う。店長さんの言葉を聞いて僕は少しほっとした。


「始めて、1人でのレジ対応ちゃんとできていたよ。自信持って。まゆちゃんなんかね。始めて1人でレジ対応した時なんか…」

「店長。お願いですからそれは内緒で……」

「えー、でも、聞きたいよねぇ?」

「興味あります」


店長さんに僕が答えるとまゆ先輩は顔を赤くしながらジト目で僕を見つめながら肘で僕の横っ腹を殴りつける。割と思いっきりやっているみたいだが、そこまで痛くない。かわいい。


「まゆちゃんね。最初めちゃくちゃ緊張してお客様に渡された本をお預かりします。じゃなくてお返しします。とか言い出して…その後、透明なフィルムで包まれていた漫画にブックカバーお付けしますか?って聞いてお客様を戸惑わせて…トドメに、お釣りを1000円札と5000円札を間違えて渡してお客様がめちゃくちゃ驚いて、あの…多いです。ってめちゃくちゃ言いにくそうに申し出てきて…」

「店長…お願いですから…もう、許してください」


まゆ先輩のライフはゼロのようだ。店長さんも恥ずかしさのあまりガチで泣きそうなまゆ先輩を見てさすがにやばいと思ったのか口を塞いだ。


「ま、まあ、そんなことが笑い話にできるくらいまゆちゃんはちゃんと成長したからさ、ちゃんといろいろとまゆちゃんに教えてもらうんだよ」


店長さんは僕にそう言い残してレジを出た。いや、レジを出た。じゃなくて、レジから逃げ出した。が、正しい表現だろう。


その後、ちょっと不機嫌なまゆ先輩とレジでお客様の対応やブックカバーの作成などを行い、閉店時間になり売上金の勘定をまゆ先輩と2人で行い、勘定が終わる頃には店長さんとみはね先輩が店内の作業を終わらせていたので、2日目のバイトは終わった。


僕は散々恥ずかしいことを言われてちょっと拗ねて不機嫌なまゆ先輩のご機嫌を取りながらまゆ先輩と一緒に帰宅する。







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