第89話 去年の分と今年の分





「りょうちゃん、今日は迷惑かけてごめんなさい」

「全然大丈夫だよ」

「すごく楽しかったよ。ありがとう」

「うん。でも、まだ今日は終わってないよ」


僕と春香はそんなやり取りをしながらアパートに帰り部屋に入る。そして、リビングに向かい春香はソファーに腰をかけた。


「お、入ってる」

「ん?何が?」

「まゆに頼んでおいたんだよね。部活が終わってすぐに取りに行って冷蔵庫に入れてくれたみたい。春香の誕生日ケーキ」


前々からまゆ先輩にお願いしていたここら辺で一番美味しいと有名なお店のケーキだ。部活が終わってすぐに取りに行ってもらって、食事に出かける前にアパートのポストに僕の鍵を入れておいてその鍵を使って部屋の中に入ってもらい冷蔵庫に今日の分を入れておいてもらった。まゆ先輩にはいろいろと協力してもらって本当に感謝しないとな…


「春香が好きなチーズケーキ、買ってきてもらったんだ。今日は普通のチーズケーキだけどさ、明日、春香の誕生日会で誕生日ケーキ食べる予定だから誕生日ケーキは明日まで我慢してね」

「え、ちょ、誕生日会って…聞いてないよ…」


春香は戸惑いながら嬉しそうに呟いた。


「サプライズだよ。明日の誕生日会は僕とまゆとりっちゃんさんで前々から企画してたんだ。春香のバイトがないこともちゃんと確認したしまゆもりっちゃんさんもシフト入れないように調整してくれたんだ。だから、明日は楽しみにしててね」

「もう…急に言わないでよぅ…私、幸せすぎて死んじゃうよ…」

「え…それは駄目…」

「冗談だよ」


春香にそう言われてホッとしながら僕はチーズケーキをお皿に移して春香が座るソファーの前にある小さなテーブルに運んだ。テーブルに運ばれたチーズケーキを見て春香は美味しそう。と呟いた。


「まゆちゃんには本当に感謝しないとね…」

「そうだね。春香のためにってこんなに協力してくれて…まゆやりっちゃんさんみたいな友達が春香にできてすごく嬉しいよ」

「何それ…でも、そうだよね。私なんかのためにいっぱい準備したりしてくれたまゆちゃんとりっちゃんには本当に感謝だよ…もちろん、一番頑張ってくれたりょうちゃんにもね。ほんとうにありがとう」


春香はすごく幸せそうな表情で僕に言う。春香にそう言ってもらえて僕も幸せな気持ちになれた。


「いえいえ、春香の幸せそうな表情が見れて僕も幸せだよ。まゆやりっちゃんさんにも明日ちゃんとお礼言ってあげてね。あと、まゆとりっちゃんさん、及川さんにはちゃんと謝ること、3人ともめっちゃ心配してたから」

「うん。それはわかってるよ…」


春香はシュンとした表情をする。それを見た僕は、春香の頭を撫でてあげた。すると春香は一瞬で幸せそうな表情に戻った。かわいい。かわいすぎるよこの子……


「ねぇ…りょうちゃん、ケーキ食べさせて」

「うん。いいよ」


甘え声で春香におねだりされた僕は断れるはずがなく、春香にチーズケーキをあーんして食べさせてあげた。春香と僕は交互にあーんをし合ってあっという間にチーズケーキはなくなってしまった。めちゃくちゃ美味しいチーズケーキだったのでもっとゆっくり味わいたかったが幸せだったのでいいか……



「春香…プレゼント、用意したんだけど受け取ってくれる?」


チーズケーキを食べ終わり、お皿の片付けを終えた後、僕が春香に尋ねると春香はうん。と頷いてくれたので僕は自分の部屋にずっと隠して置いていたプレゼントを持ってくる。


このプレゼントがきっかけでまゆ先輩と一緒に出かけることになり初めて、まゆ先輩と春香の誕生日プレゼントを買いに出かけてから数週間で今の状況になっていることを考えると本当にいい生活をできているんだな。と思えてくる。


「これ…まゆ先輩と初めて出かけた日に買ったんだ。自分一人だとさ…春香に満足してもらえるか不安でまゆ先輩に選ぶの手伝ってもらったんだ。最後は自分で決めたけどこれなら満足してもらえるって思えるもの用意したからさ、受け取ってください」

「ありがとう。すごく嬉しい。さっそく中見てもいいかな?」

「どうぞ…」


プレゼントがラッピングされた袋を春香は開けた。袋の中から春香は小さな箱を2つ取り出す。


「去年さ…渡せなかったから今年、去年の分も渡すね」

「え…もう…嬉しいなぁ…幸せすぎて本当に死んじゃうよ…」

「それは絶対駄目」


僕の返事を聞いて春香は笑いながらプレゼントの箱を開けた。一つ目の箱にはイヤリングが入っている。一眼で春香に似合いそうと思いまゆ先輩に感想聞いたらすごくいいと思う。と言われたのでこのイヤリングをプレゼントすることにした。春香に付けてみてと言うと春香はイヤリングを付けてくれた。めちゃくちゃ似合っていてかわいい。そこそこのお値段がしたがプレゼントしてよかった。


「すごくかわいい…ありがとう。一生大切にするね」

「喜んでもらえてよかったよ。うん。大切にしてね。もう一つはさ…明日開けてくれない?誕生日会でまゆとりっちゃんさんも渡したいって言っててそれなら僕も同じタイミングで渡したいなって思っててさ…」

「わかった。じゃあ、こっちは明日まで楽しみにしておくね」

「うん。ありがとう」


僕の返事を聞いて春香はまだ開けていない箱を再び袋に入れて、また明日渡してくれるかな?と言って、開けてない箱が入った袋を僕に返すのだった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る