第88話 海辺で愛する幼馴染みと…





「料理美味しかったね。りょうちゃん、ご馳走様」

「いえいえ、また来ようね」

「うん。今度はまゆちゃんも一緒に…ね…」

「うん」

「この後はどうするの?」

「夜遅いけどさ、もう一箇所だけ付き合ってくれるかな?」

「うん。どこに連れてってくれるか楽しみ」


春香はそう言いながら僕と手を繋いだ。春香と手を繋いで街を歩いた後、電車に乗りアパートの最寄り駅まで帰る。最寄り駅に着いてからはアパートに帰る道とは逆の道を歩いた。先程までの街の道とは違い、今度は田んぼ道を手を繋いで一緒に歩いた。


「ねえ…どこ行くの?こっちの方って何かあったっけ?ていうか、私、こっちの方あまり来ないからわからないんだよね」

「もうすぐ着くよ。ほら、見えた」


田んぼ道をひたすら歩いた先に広がっていたのは広大な海だ。まゆ先輩やりっちゃんさんに聞いたら砂浜を歩きたいならここら辺ならここが一番だと言われた場所だ。まゆ先輩と行ったところほどではないが、たしかに散歩したりするならかなりいい場所だろう。


「春香がさ…2人でも来たいって言ってたから…」

「ありがとう…覚えててくれたんだね。私の独り言だったのにな……」


春香は嬉しそうに僕を見つめてお礼を言う。そして春香は僕に抱きついてきた。抱きついてきた春香をそっと受け止めて春香を抱きしめ返す。そして春香の唇と自分の唇を引っ付けた。夜の真っ暗な海沿いの砂浜で、好きな人と2人きりで、お互いに愛し合って…抱きしめ合って…キスをする。最高のシチュエーションだろう。きっと、まゆ先輩と初めて海に行った日にまゆ先輩が言っていたまゆ先輩の夢はこういうシチュエーションなのだろう。春香と唇を離してお互い無言で手を繋いで砂浜を歩いている時にふと、そう思ってしまった。まゆ先輩にちょっと申し訳ない気持ちになるが、いつかまゆ先輩にもこういうことをしてあげたいな。と思う。


「春香、あまり時間なかったからさ、全然お祝いしてあげられなかったけど楽しんでくれた?」

「うん。すごく楽しくてすごく幸せだったよ。ありがとう」


手を繋いで砂浜を歩きながら春香は僕にお礼を言ってくれた。そして…


「去年ね。誕生日はまゆちゃんとりっちゃんが誕生日会してくれたんだ。まだ、2人と出会ってすぐだったけどいっぱいお祝いしてくれて本当に嬉しかったの…でもね、2人にはすごく申し訳ないけど物足りなかったんだ。毎年、誕生日はりょうちゃんがいっぱいお祝いしてくれてたじゃん。去年、りょうちゃんと離れて、りょうちゃんから直接おめでとう。って言ってもらえなくて寂しかったの…昨日もね。怖かったんだ。今日、私の誕生日なのにお泊まりに行っちゃったから私のことなんかどうでもよくなったのかな…って…あ、今はちゃんとそんなことなかったってわかってるよ。まゆちゃんのお母さんだけと会える日が昨日くらいしかなかったから仕方ないけど…せめておめでとう。ってLINEくらいしてくれてもよかったじゃんとは今も思う…そうしてくれれば私も失踪するまでのことはしなかったはずだよ…」

「ごめん…でもね。LINEでおめでとうって言わなかったのは理由があるんだ」

「理由?」

「去年さ、僕に直接おめでとうって言ってもらえなくて寂しい。って言ってくれたじゃん。僕も寂しかったんだ。春香に直接おめでとうって言えなくて…せめて電話しようかなって思ったけど、春香、一人暮らし始めたばかりで大変だろうからやめた方がいいなって思ってLINEでおめでとうって言ったけど、本当は直接会って、おめでとう。って言って、プレゼント渡したりどこか遊びに行ったりしたかったんだ…だから今年は絶対に直接言うって決めてたからさ…」


僕が話しているのを春香は顔を赤くしながら嬉しそうに、涙を溢しながら聞いていた。そして話終えた瞬間、春香は僕に抱きついてきた。


「もう、そんな嬉しいこと言わないでよぅ…嬉しくて泣いちゃうじゃん…」

「え、ごめん」

「抱きしめて…今…顔見られたくないから……」

「わかった」


僕は春香に言われた通り、春香を抱きしめた。僕に抱きしめられた春香は顔を僕の胸に押し込むようにして表情を隠した。


「大丈夫?」

「大丈夫じゃない…顔見せれないから…しばらくこのまま…」

「うん。わかった。春香、大好きだよ」

「今…それ…言わないでよ……本当に…泣き止めなく…なっちゃうから……」

「ごめん」

「私も…りょうちゃんのこと……大好きだよ…」


泣きながら震える声で春香は僕に言ってくれた。春香に大好き。と言ってもらえることが本当に嬉しかった。


それから春香はしばらく泣き続けた。ずっと泣きながら大好き。を繰り返していてくれた。本当にかわいい。かわいすぎてやばい…もうずっとこうしてたい。


「もう…大丈夫……」

「そっか…」

「今から顔見せるけど…ぐちゃぐちゃでも笑わない…でね…」

「うん」


僕の返事を聞いた春香は恐る恐る顔をあげた。たしかに、春香の顔には涙の跡がいっぱい残っていた。だが、やはり春香はかわいい。


「かわいいよ。大好き」

「ありがとう。私も大好き」


春香は幸せそうな表情で僕に抱きついたまま、少し背伸びをして僕の唇と春香の唇を近づけてそのままキスをするのだった。






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