第63話 昔の約束





「私、大きくなったらりょうちゃさんと結婚する〜」

「僕、大きくなったらはるかと結婚して絶対にはるかを幸せにする」


僕が7歳で春香が8歳の頃、僕たち2人はいつもこんなやり取りをしていた。それを、お互いの家族は微笑んで聞いており、僕の両親は春香に、春香の両親は僕に、大切な自分たちの子どもを幸せにしてあげてね。とお願いをしていた。その、お互いの両親のお願いに僕と春香は無邪気に微笑んで、うん。と返事をしていた。


その時は、お互いに好き。という感情を隠していなかった。いつからだろう。春香のことを好きって言えなくなったのは…春香に結婚したい。と言ってもらえなくなったのは……


「ねえ、りょうちゃん、今日は私とお絵描きして遊びましょう」

「ダメ、りょうちゃんは私とおままごとするの!」


紙とクレヨンを持って、当時7歳だった僕に当時8歳だった春香が遊びに誘うのを強引に断ち切るように一人の女の子が、僕と春香の間に入って言う。頭の上に乗っかっているリボンをヒラリとさせている女の子は、僕と春香の幼馴染み、夜叉神陽菜、陽菜はお金持ちの家に産まれたお嬢様でいつも春香を下に見るような素振りがあった。


僕と春香と陽菜の母親はとても仲が良かった為、春香は嫌がっていたが、僕と春香と陽菜は一緒に遊ぶことが多かった。


一緒に遊ぶ。と言っても、3人で遊ぶ時、春香は陽菜に相手をされなかった。自分で言うのもなんだが、春香と陽菜は僕を取りあっていたのだろう。春香のことが好きだった僕だが、陽菜は泣き出すとめんどくさい為、3人でいる時は陽菜の言うことを聞くように、と春香に言われていた。


「はるかも一緒におままごとしよう」

「うん」


僕が春香を誘い、春香が笑顔で頷くのを陽菜は気に食わない様子で見ていた。


僕たち3人の仲はいいのか悪いのかはわからない。だが、はっきりしていることは、僕と春香はお互いに特別な意味で好き。と想いあっていて、僕と春香は陽菜のことを友達として好き。と思っていた。だが、陽菜はそれが気に食わなかったようだ。


そんな微妙な関係の幼馴染み3人だったが、ある日突然、陽菜が引越しをすることになった。引越しをする陽菜の家族と、僕の家族、春香の家族で、陽菜の家族の送別会をした。


「りょうちゃん、はるなね。りょうちゃんのことが好きなの」


送別会の途中、陽菜は僕を連れて2人きりの状況を作り、僕に好き。と自身の想いを伝えてくれた。今日が、伝えられる最後の機会だから。と涙を必死に堪えながら伝えてくれた。


「ごめんなさい。僕、はるかのことが好きだから…」

「やっぱりそうだよね。うん…わかってた。はるな、はるかちゃんに謝らないとな…勝手にやきもち焼いて、りょうちゃんと一緒にいる時、はるかちゃんに冷たくしちゃったから…」


先程、陽菜は春香を相手にしない。見下した様子を見せることがある。と言ったが、それは僕といる時だけだ。春香と陽菜が2人きりの時、2人はめちゃくちゃ仲が良い。春香の方が1つ歳上なので、周りからはよく仲良しの姉妹みたいだね。と言われるほどに仲がよかった。だから、春香は陽菜のことが友達として、幼馴染みとして好きだったのだ。


僕が春香のことを好きと知った陽菜は大人しく引き下がった。そして、今度は春香を外に連れ出して2人で話をしているようだった。後で、春香から聞かされた話の内容は、りょうちゃんと3人でいる時に冷たくしたり酷いことしてごめんね。りょうちゃんのことを絶対に幸せにしてあげてね。というものだったようだ。春香は、絶対にりょうちゃんを幸せにするから安心して…また、3人で遊ぼうね。今度は3人仲良くね。と答えたらしい。それを聞いた陽菜は号泣し、春香は陽菜を泣き止ませて2人で送別会に戻ってきた。


その後の送別会は、久しぶりに3人で仲良く笑って楽しめた。仲の良い幼馴染みとして僕と春香は陽菜を送り出すことができたのだった。



だが、陽菜が引越してから数日後、問題が起こったのだ。


「あんたが、はるなちゃんを傷つけた子?」


陽菜と仲の良かった女の子たちが学校で春香を虐めるようになったのだ。


引越しの前に告白する。と友達に言っていた陽菜は振られたことを伝える。陽菜は結果を受け入れて納得していた。だが、陽菜の友達は春香がいるから陽菜は振られたと考えて陽菜の友達は歳上の春香を相手に数人で虐めを始めた。


「もう、私、学校行きたくない……」


春香にそう言われた僕は、陽菜に連絡をして、陽菜の友達に誤解を解いてもらった。


「はるか、一緒に学校行こう」

「嫌だ…怖いもん」

「もう、誤解は解けたから大丈夫だよ。もし何かあったら絶対に僕がなんとかするから、一緒に学校行こう」

「約束…してくれる?絶対、私を助けてくれるって…」

「うん。約束する。僕はいつでも、いつまでもはるかのことを守るよ。絶対、はるかの味方でいる。絶対、はるかの側にいる。はるかが辛い時は絶対、側で支えてあげる」


これが僕と春香の約束だ。


春香は僕の誓いを嬉しそうに聞いて僕を抱きしめた。それからだ。春香が、僕と結婚したい。と言わなくなったのは…


理由はわからない。わからなかった。だが、今ならわかる。きっと春香は………




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